リラの花咲きキーウ 世界は侵略者から守れ 書く書く鹿じか
札幌の大通公園で「ライラックまつり」が開かれている。昭和34(1959)年に始まり、翌年、市民の投票でライラックが札幌市の木に選ばれた。 コロナ禍の前、義父の法事で北海道に行った際に、まつりの会場をのぞいた。焼きトウモロコシやビールなどの屋台が出て、初夏の日差しを楽しむ人たちでにぎわっていた。 北国では花々が一斉に咲くが、円錐(えんすい)状に密生した紫や白、ピンクのライラックがとりわけ目立つ。ヨーロッパ生まれで、フランス語ではリラ。日本には明治の中頃に伝わった。寒暖の差が大きいこの時期の寒さを「リラ冷え」と呼ぶ。 トルストイの名作「復活」で、青年貴族ネフリュードフが小間使いのカチューシャと初めて口づけをするのが、ライラックの木陰だった。彼女は花の散った枝を折り取って、赤くほてった顔をたたきながら走り去る。印象的なシーンだ。 札幌のようにライラックが春を告げる街がある。ウクライナの首都キーウである。気候も札幌に似ている。今年もライラックは咲いているのだろうか。長引く戦争で、いつミサイルやドローンが飛んでくるかとおびえる市民に、花を愛(め)でる余裕はないだろうが。 ロシアによるウクライナ侵略は3年目に入り、戦況はロシアに有利に傾いてきた。米議会がウクライナへの軍事支援の緊急予算案をようやく可決したが、この間、ウクライナは弾薬や装備の不足でロシアの攻勢を許し、東部の集落をいくつか奪われた。西側諸国も自国の軍備が手薄になる状態で、支援疲れが見られる。 一方のロシアは、プーチンが力で反対勢力を抑え込み、通算5期目の大統領に就任した。北朝鮮やイランが兵器を提供しており、ショイグ国防相を交代させるなど余裕をうかがわせる。経済制裁も中国やインドが抜け道になって効果がない。 ちょうど1年前、広島で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開催された。核保有国を含む参加各国首脳が、原爆の惨禍を伝える平和記念資料館(原爆資料館)を訪問し、慰霊碑に献花した。ウクライナのゼレンスキー大統領も急遽(きゅうきょ)来日して、ロシアに対抗する結束を強めた。 しかし、プーチンは「核の脅し」をやめない。戦術核兵器の使用を想定した演習を指示したという。