夢の扉 ‘25注目ルーキー 光る君へ ヤクルト次代の4番候補・D2位モイセエフのために「野球本60冊」読みまくったロシア人の父
プロ野球のルーキーにスポットを当てる連載「夢の扉」(随時掲載)の第2回は、ヤクルトからドラフト2位指名されたモイセエフ・ニキータ外野手(18)=愛知・豊川高=のルーツに迫る。ロシア生まれの両親を持つ高校通算18本塁打のスラッガー。野球の経験がない父・セルゲイさん(47)の熱心なサポートを受け、プロへの扉をこじ開けた。(取材構成・武田千怜) 【写真ギャラリー】小学生時代のモイセエフ、父・セルゲイさんらとの家族ショットも 愛知県阿久比町の自宅には、父が息子に注いだ愛情の証しがある。本棚に残る野球に関連する60冊ほどの本である。野球未経験だったモイセエフの父・セルゲイさんが、野球を学ぶために読みあさったものだ。 「どこでつまずいて、どこでうまくいかなくなるか、私自身も理解しないと、アドバイスはできない」 息子を支えようという強い信念が猛勉強につながった。セルゲイさんは大学卒業後の2000年に来日。38歳まで現役選手として空手に打ち込んだ武道家だ。ロシアでは野球はあまり普及しておらず、ルールも知らなかったが、モイセエフの兄である長男のイリヤーさんが競技を始めると、本やYouTubeを使って熱心に学んだ。 本棚にある本は打撃、投球、メンタル、体づくり、食事とジャンルはさまざま。通販サイト「Amazon」の商品説明やレビューを見て「どの動作についてよく説明されているかを確認して買っていた」といい『バッティングが変わる驚異のシンクロ打法:発見~タイミングの法則~』(日本文芸社)や『マルチビジョン・ピッチング』(成美堂出版)などが並んでいる。 「息子たちは(変化球と)認めてくれない」と謙遜するが、勉強の成果もあり自ら投球動作をマスター。今ではスライダー、カーブ、シュート、フォークボールと変化球も操ることができる。 モイセエフが小学生時代は自宅の裏に自作で打撃ケージを設営し、中学生時代は自宅近くにある本格的な打撃練習が可能な施設に足を運んだ。愛知県内の機械メーカーで開発や研究の職に就いているため、練習に向かうのは仕事を終えて帰宅後の午後10時頃だったが、愛息を献身的にサポートする姿勢が変わることはない。 「マシンの球は投げるタイミングがわかりにくいので、実戦的な練習としてはよくない」との情報を聞くと、自ら投手役を務め、変化球を交えて息子に〝真剣勝負〟を挑んだ。「中学からは多くの変化球を投げる投手が増えてくる。見極めが必要になってくる中、私が(打撃投手として)投げると、マシンよりも集中していた。笑顔も増えるし、コミュニケーションも良く取れた」と振り返る。