「選択的夫婦別姓訴訟」の争点とは… 姓の変更か結婚を諦めるか“強制的な2択は違憲”
「性同一性障害特例法」違憲判決が夫婦別姓裁判に影響する?
――今回の3次訴訟は、前2回の訴訟と比べて新しい主張はあるのでしょうか。 三浦:基本的に言いたいことは変わっていません。姓を変えることによるアイデンティティーの喪失の問題で、結婚を諦めざるを得ない。姓を変えるか結婚を諦めるかの二者択一を迫られる状況が問題だというのは、最初の訴訟から主張し続けています。 ただ、前2回の訴訟と異なるのは、性同一性障害特例法(以下、特例法)の違憲判断(2023年)が今回の訴訟の根幹となる議論を作ってくれた点です。 これまで特例法は、性別変更に生殖能力をなくす手術を受けることを要件にしていましたが(いわゆる4号要件)、この手術は身体への侵襲を伴う非常に負担の大きいものです。4号要件があることで、性自認に従った性別の取扱いを受けるために強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、危険を伴う手術を避けるために性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものとなっており、その制約は過剰なものであるから4号要件は違憲だとされました。「2択を迫られること」を憲法上、どのように検討・判断するかの指針を与えてくれた判決なんです。 ――そもそも強制的に2択を迫られること自体が人権としていかがなものか、という考え方ですね。 三浦:そうです。特例法なら体に負担のかかる手術をするか、違和感のある性のままでいるかという2択。選択的夫婦別姓では、姓を変えるか結婚を諦めるかという2択。強制的な2択が自律的な意思判断を妨げているのなら憲法の問題だと、根本の部分に改めて焦点を当てているのが、今回の3次訴訟のポイントです。
「すでに国民の理解は得られている」
――自民党総裁選で石破氏が新首相になりましたが、行政に期待することはありますか。 三浦:岸田文雄前首相は、選択的夫婦別姓の制度実現を早期に求める議員連盟に入っていたはずなんですけど、首相になった途端、慎重な姿勢になってしまった。石破さんも総裁選では選択的夫婦別姓にポジティブな見解を示したのに、やはり総裁になった途端、言うことが変わっています。党内に反対派もいるので慎重な姿勢なのでしょうが、強いリーダーシップを発揮して議論を進めてほしいです。 ――裁判は国会や内閣の動向に左右されるべきではありませんが、裁判の見通しに影響はあるでしょうか。 三浦:私は勝てると思っています。また、すでに国民の理解も得られていると思っています。この問題を取り上げるメディアの論調も変わってきています。先人の戦いがあって、今ようやくここまできていますから、この長い闘いに終止符を打つために、頑張りたいと思います。 ■杉本穂高 本映画学校(現・日本映画大学)出身。神奈川県のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ(現・あつぎのえいがかんkiki)」の元支配人、現在は映画ライター。
杉本穂高