「選択的夫婦別姓訴訟」の争点とは… 姓の変更か結婚を諦めるか“強制的な2択は違憲”
「通称使用」による不利益の“緩和”では根本解決にならない理由
――同姓が強制されることで、今日の社会では不都合や不利益が生じていると原告側は主張しています。これに対しては、国はこれまでどう反論してきたのでしょうか。 三浦:国側から正面きっての反論はありません。こちらは「不利益があった」という事実を提示しているので、国としても「事実と異なる」とは言えませんよね。国は、「不利益はあるかもしれないが、旧姓の通称使用(※)によって緩和されているので、違憲であるとまでは言えない」という主張なのです。 ※社会生活において旧姓を通称として使用すること。 ――不利益の「緩和」ということは、不利益は「消滅」していないということですよね。 三浦:はい。多少残っているけど、我慢しろという国の意見に最高裁判所がお墨付きを与えてしまっている状況です。旧姓の通称使用は、元の姓を特定の場面で使えるだけのものですが、姓の変更でアイデンティティーの喪失感を抱えている人にとってみれば、そもそも自分の名字を「旧姓」にしたくないと考えているので、「旧姓」が使えるようになったとしても意味がありません。通称使用は根本的な解決になっていないと原告側は繰り返し主張しています。 ――経団連も選択的夫婦別姓を導入すべきと主張し、強制的な姓の変更は経済的な不利益がある、通称使用では限界があることは多方面から指摘されるようになってきました。 三浦:そうですね。通称使用が社会に拡大しても、金融取引や不動産・法人登記など旧姓単独の表記が認められない場合もあります。銀行口座の開設や携帯電話の契約、保険…戸籍上の姓を使わざるを得ない場面は多いです。また、パスポートのICチップは国際規格で決まっていて、日本が独自の改変をすることができませんので、法的な姓ではない旧姓を登録することはできません。旧姓を併記したパスポートの利用により入国時に偽造ではないかと疑われてトラブルになった例もあります。今回の裁判では、こうした具体的な問題を立証する書類も提出しています。 国は、通称使用の拡大によって不利益が緩和されたと言うけれど、それではどこまでやっても不十分で、そもそも、「通称使用が拡大したことの意味はなんだ?」という点に目を向ける必要があると主張しています。そうすれば、通称使用の拡大は、結婚しても姓を維持したままでいたいという社会的な要請の高まりを意味しているのであって、夫婦同姓制度を擁護する事情として使うのは誤りであると分かると思います。