「人を愛し、ともに生きたい」 森下洋子が43年目のクララ 松山バレエ団「くるみ割り人形」大阪公演
舞踊歴73年。日本バレエ界のレジェンド、森下洋子が11月16日(土)、大阪・フェスティバルホールで「くるみ割り人形」の主役・クララを踊る。松山バレエ団(東京都港区)の2年ぶりとなる大阪公演で、このほど同ホールで会見が開かれ、森下が意気込みなどを語った。 【写真】空を見上げてアラベスク!未来のプリマを予感させる、子どもの頃の森下洋子 松山バレエ団の「くるみ割り人形」初上演は、1982年11月。以来43年にわたり、森下は同役を務めてきた。「クララとともに成長させてもらえたかなという思いがある」と感慨深げに振り返る。 物語全体に関わる演出は少しずつ変化してきた。とりわけ東日本大震災を経てからは、生と死、鎮魂などにテーマがシフトした。「人を愛すること慈しむこと、そしてみんなでともに生きていきましょうという気持ちで作品に挑んでいます」と森下。ただ、主人公クララのキャラクター自体は、初演時から変わっていない。自分のことはさておき人を思いやる心、苦難に立ち向かう勇気、明るく前に進む強い姿勢。その純粋さ、ひたむきさは、踊り手である森下とぴたりと重なる。 広島市生まれ。1945年8月6日、爆心地の近くにいた祖母は被爆、運ばれた先で「お経まで上げてもらった」が一命を取りとめた。祖母は左半身が焼け、顔もやけどだらけだったが「ひと言も『原爆が憎い』とは言わなかった。『こうやって生きていることが嬉しい』といつも話していた」(森下)という。祖母について原爆病院へと通った孫娘は、そこで後遺症に苦しむ大勢の人を見た。 その時に芽吹いた「人間に、人類にあってはならぬこと」という反戦の意識が、表現者として原動力の1つになっている。終戦からもうすぐ80年となる今、その意識はますます強固に。「平和への祈り、願いを常に持って踊っています。戦争のない世界で皆さんの幸せな顔が見たい」。 「くるみ―」の中でとくに好きな場面は?との問いに「チャイコフスキーの楽曲そのものがすごく好きです。どの場面も素晴らしいが」と前置きした上で、「(クライマックスで王子と踊る)グラン・パ・ド・ドゥ。チャイコフスキー3大バレエ曲の中でも際立つアダージョで、踊りながら涙が出るほど美しい」と、かみしめるように答えた。 本番に向け、すでにバレエ団全体で本格的な稽古が始まっているという。当日は、兵庫や大阪、京都でバレエを習う子どもたち約30人も出演する予定だ。「大阪の舞台は、客席の熱さがそのまま伝わってくる感じがする。本番が楽しみです」。瞳を輝かせた。 公演の予約、問い合わせはフェスティバルホール チケットセンター、電話06-6231-2221。
ラジオ関西