【凱旋門賞】「武豊が凱旋門を勝つところが見たい」松島正昭オーナーの熱い想い 新しい形で紡いだ夢とは
「凱旋門賞・仏G1」(10月6日、パリロンシャン) さあ、凱旋門賞ウイークに突入だ。ドウデュース(牡5歳、栗東・友道)の出走見送りで一度は途絶えた『夢物語』。しかし、(株)キーファーズ代表・松島正昭オーナー(66)の諦めない気持ちが、“愛G1馬アルリファー×武豊”という新しい形で夢を紡いだ。常々「武豊が凱旋門賞を勝つところが見たい!」と話すオーナーの熱い想いに迫った。 ◇ ◇ -オーナーにとって凱旋門賞とは。 「みんな勘違いしてる。“松島オーナーは武豊を乗せて凱旋門賞を勝ちたい”って。全然違う。武ちゃんが凱旋門賞を勝ちたい。“ディープの時、絶対に勝つと言われて負けたことがめっちゃ悔しい、夢に出る”って、ずっと聞いていたから。俺は武豊が凱旋門を勝つところを見たい。武ちゃん、たぶん泣くから。競馬の歴史をつくった人が一番の夢を勝って、どんな顔をするのか見たい。そんな想いで挑戦してる」 -7月にドウデュースの凱旋門賞見送りを表明した。 「武ちゃんに代わりになる馬を用意したらなアカン、なんとかするって思った」 -愛G1馬アルリファーを共同所有し、挑戦することになった。 「去年のギヨームドルナノ賞(仏G2)でエースインパクト(23年仏ダービー&凱旋門賞制覇)の2着。その時にシンジケートが組まれて20%を所有していた。急に購入したみたいに思われているけど、違う」 -それが50%に。 「セレクトセールで関係者が“アルリファーは強いから半分持て”と。ジョセフ(J・オブライエン調教師)に電話したら、“1戦叩いて凱旋門賞に行く”と言う。“半分持つから、ジョッキーは当然ユタカ・タケでいいか?”って。向こうで持っている馬を何頭かトレードして、そのお金を回してくれって。話がまとまったのはベルリン大賞の1週前。クールモアと折半している馬は今で8頭ほど。50%じゃないと自分の勝負服にならないし、契約に『武豊に優先権利がある』という一筆が入ってる。武ちゃん、喜んでた。長年培った経験とクールモアとの関係。お安いご用や」 -世界最大の馬主・クールモアと親密。 「ジョッキーについては、エイダン(A・オブライエン調教師)やクールモアが認めないとアカン。でも、エイダンは武豊を認めてる。エイダンに“武豊がアーク(凱旋門賞)を勝つのが、マイドリーム”って言ってるし、マツシマの馬は武豊が乗るって分かっている」 -アルリファーの強さは。 「エースインパクトと本気の勝負をして強いと思った。その後に凱旋門賞に行ってたらいい勝負やった。450キロそこそこ。凱旋門賞は重い馬はあかん。強いと思うし、チャンスがある。(共同所有した)ジャパンやブルームと比べても手応えがある」 -松島オーナーといえば武豊。出会いは。 「ファンやったから1回ご飯を食べたいな、って。01年かな。たまたま知り合いがいて、お願いしてもらった。芸能人でも、そんなこと思ったことがないけど」 -当時の印象は。 「思っていたよりもはるかにいい人で。丁寧やし、びっくりした。本当にすごい人はえらそぶらない。頭がいいやろ?会話が弾む。友達になったら楽しいやろなぁ、って。緊張したけど、ますますファンになって、そこからずっと友達」 -馬主になったきっかけは。 「武ちゃんに馬券で負けてるって話したら、“そんなに負けるなら馬主になったら?馬買えるやん”って言われて。道楽やし、ぜいたくやから眼中になかったけど、ちょっとやってみようか、と。その言葉がなかったら馬主になってない」 -“男の友情”を感じます。 「武ちゃんが引退したら、馬主やめるよ。面白ないやん。オレの信念やから。近代競馬をつくったのは武豊。敬意を表さないと。その背景に“友情”や“とことんいった”がある。絶対にこうや、と思ったら何でも貫かんとあかん。いつか、当たる」 -凱旋門賞、応援しています。 「まず、日本人で凱旋門賞を勝つのは武ちゃんじゃないと。負けても惜しかったなーってなりたいなぁ。凱旋門賞を勝ったら、タイガースやなくて1面にしてや(笑)」 -15年から(株)キーファーズとして馬主に。 「こんなに面白いんや、って。未勝利でも、勝ったらうれしいもんな。ただ、出遅れたらガッカリするやろ?だから、いつも見てられなくて」 -そして、ドウデュースに出会った。 「デビュー前の調教に乗った武ちゃんが“松島さん、これは走りますよ”ってビックリしていた。朝日杯FSも感動した。やっぱり見てられなくて、4コーナーを回って“勝ちますよ”って言われて、ほんまや、って」 -馬主7年目でダービーオーナーに。 「皐月賞の後、武ちゃんと友みっちゃん(友道師)が“絶対に勝てる。任せてください”って言う。武ちゃんなんて“残り300メートルで抜け出してぶっちぎってきます”って。それで勝ったからね。馬主になって、やっと武ちゃんに貢献できたと思った。いい時はみんな寄ってくるけど、いい時ばかりじゃない。ケガをしたりで、しんどい時に貢献できたのはうれしい。貫いて良かった。ホッとしたのとうれしいのと。武ちゃんの頭の中に俺が残る。彼もホッとしたと思う。(お金を)突っ込む俺を心配していたから」 -ドウデュースは凱旋門賞にも挑戦。 「ジャパン(20年)、ブルーム(21年)と合わせて3回行った。門を入った時から華やかやし、桁違い。ドウデュースがパドックから出ていく姿はすごい感動した。これなんやなって」 -凱旋門賞は出走するだけでも難しいが、今年で4度目の挑戦。 「海外の当歳も買っているけど、ある程度走ってから買う方が可能性が高い。向こうの強い馬を買って“武ちゃん専用機”にしていくしかない。アルリファーは特殊。これは運。馬を持っていても、凱旋門賞に出る確率は低いから。それに、セレクトセールに関係者が来てなかったら話もできなかった。また出てくるかも分からないけど、今は、今回が最後のチャンスと思っている」 ◇松島正昭(まつしま・まさあき)1958年生まれの66歳。京都府出身。同志社大から一般企業を経て、85年に現(株)マツシマホールディングス(当時は京都マツダ)に入社。98年7月に代表取締役社長、2022年1月から会長に就任した。馬主としては(株)キーファーズ代表取締役社長。21年にクールモアと共同所有するブルームが仏サンクルー大賞を制してG1初勝利、同年にドウデュースが朝日杯FSを勝ち、JRA・G1初Vを飾った。翌22年にはドウデュースでダービーを制してダービーオーナーに。また、長女・悠衣氏が代表を務めるクラブ法人「インゼルレーシング」を設立した。