大ヒット「室井慎次 生き続ける者」に登場した“秋田の古書店”…実は雑司ヶ谷の「映画ファンの聖地」だった!
「名画座手帳」も発行
実は、「古書往来座」が“映画ファンの聖地”になったもうひとつの理由は、「名画座手帳」を発行している点にもある。2016年から発行を開始した、いわゆる日録手帳なのだが、その内容が、これまた尋常ではない。主要名画座の座席表付き情報、映画人の生没年月日(1514名! )、“あの時代”の物価表、主な旧作邦画の公開日、しかも「年齢早見表」は1883年からという凄まじさ。もちろん企画・監修は、“のむみち”さんである。 世に「歴史手帳」や「ウルトラマン&怪獣手帳」など、マニア向け手帳は多けれど、こうなると、手帳なのか資料集なのか、わからなくなる。これが毎年、1000部も制作され、「古書往来座」だけで300部が売れるというのだ(同店の通販もあり)。 しかもこの手帳、毎年、オビに豪華な顔ぶれの手書き推薦コメントが載ることでも有名だ。いままでにも、仲代達矢、倍賞千恵子、緑魔子、片桐はいり、小林旭、香川京子、ヴィム・ヴェンダース、若尾文子……東京国際映画祭も顔負けの映画人が登場してきた。 現在発売中の2025年版は、フィンランドの人気監督、アキ・カウリスマキ。さらに、2022年12月公開の「ケイコ 目を澄ませて」(三宅唱監督)で、主演女優賞を独占した岸井ゆきのが、こんなコメントを寄せている。 〈(略)すべての映画は“OKカット”の連続だ。映画の、その存在ははじめから肯定されていたのだと。〉 映画「室井慎次」2部作と「古書往来座」の出会いも、はじめから“肯定”されていたのではないだろうか。
森重良太(もりしげ・りょうた) 1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。 デイリー新潮編集部
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