出産後の「パートナーとの関係性」共働き・共育てのピリピリ期を経て学んだことは?
相手への解像度を上げる。看護師学生時代に学んだ方法「プロセスレコード」とは?
――見逃すことが多いと、相手にイライラしてしまうこともあるのではないかと想像します。 シオリーヌ 私の場合、自分のイライラを減らすために、相手の解像度を上げようと思っているかも。解像度が低いと、相手に悪意があってその行動をとっているように思えて嫌な気持ちになってしまいませんか? 「なんで約束を守らないんだろう」とか「約束を破るということは、私のことを軽視しているのかも」と思ってしまったり。 でも少し解像度を上げると、「これこれこういう理由があってこういう行動をとったのかな?」とその背景を想像することができる気がするんです。 そういうふうに考えるようになったのは、看護師学生時代の経験が影響しているかもしれません。看護学実習の課題のひとつとして、「プロセスレコード」という方法を学ぶ機会があって。患者さんとのコミュニケーションや相手の反応、行動などをすべて記録して文字に起こすことで「この言葉が出たのは、どういう感情があったからだろう?」と考察する方法なんですが、もしかすると、今それに近いことをしているのかもしれない。 そういうふうに、相手の行動の背景を想像したり理解していくことで、イライラすることも減った気がします。
アジェンダや議事録、前年度評価。家族の頑張りを可視化する「家族会議」とは?
シオリーヌ 話し合いの頻度が下がったとはいえ、一年に一回必ず家族会議は開催していて、今年も結婚記念日に開催予定です。会社の会議みたいに議題も立てるし、議事録もとってファイリングしているんですよ。 会議の内容は、パートナーシップ、家事、仕事、経済、健康、子育てについて。それぞれの状態をA、B、Cの3段階で評価をつけます。年度ごとの目標を立てて、その達成度も併せて振り返ります。だいたい一回の会議で3~4時間かかりますね(笑)。 これがもし会社なら、目標に対してどのくらい頑張ったか、達成されたかというフィードバックがあると思うのですが、家の中でのそういう頑張りって、誰かに認められたり、評価されることはない。だからこの議事録を読み返すと、目には見えない自分たちの努力の変遷、家庭への貢献度を可視化することができるんです。 ――その会議を始めるようになったのはどうしてなんでしょうか。 シオリーヌ 私自身、一度離婚を経験していたり、両親やまわりにも離婚している人が多くて、つくしも家庭環境にいろいろと思うことがあり、二人の中で「仲のいい家族を実現するためには結構頑張らないといけない」という共通認識があるんです。 「おばあちゃん、おじいちゃんになるまで一緒にいよう」という言葉をよく聞くけれど、それって、相当な努力の上に成り立っていることだと思う。いろいろなことを放置したら、ゆくゆくは家族が壊れるかもしれない、という未来がお互いに見えているんです。だからこそ、家族として続いていくためには、話し合いをすることが重要だという認識があります。 ――パートナーと話し合うことが難しいと感じる方もいると思うのですが、どうすればお二人のように話し合いを進められるでしょうか? シオリーヌ 私もよく、「パートナーとの話し合いができない」という相談をいただくのですが、「話し合いができない」にもレベルがあると思っていて、「家族は言葉がなくても以心伝心」「話し合う必要はない」という価値観を持っている人と話し合いをするのは、そもそも結構難しい気がします…。それがいいか悪いかということではなく、考え方の違いです。 だから、きちんと話し合いをしたい派は、同じように話し合い大事派の価値観を持つ人とマッチングしたほうがいいと思っているんですよ。もし今パートナーを探している段階なら、「私は結構いろいろなことを話したい」と表明しておいたほうがいいのかなと思います。 私もそれは、つくしとつき合う前に何度も言っていました。「察してとか無理なんで、思ったことは言いましょう」と。 とはいえ、私たちも最初からうまく話し合えていたわけではありません。つくしが「責められている」と感じて殻にこもってしまうことも多くて。穏やかに話したいだけなのにケンカになってしまうと悩む方も多い気がするのですが、私の場合は、「あなたを責めたり勝ち負けを決めたりしたいのではなく、ただ話し合いをしたい」「トラブルなく過ごしていくために必要な工夫を考えたいんだ」と繰り返し伝えていくうちに、夫も落ち着いて話してくれるようになったと思います。 つくしいわく、“話し合いの成功体験の積み重ね”らしいんです。「自分の意見を言っても否定されなかった」とか、「自分の意見が受け入れられた」とか。それを繰り返す中で、話し合いっていいなと思うようになった、と。 時間がかかる作業かもしれませんが、話し合いをすることの大切さがすり合わせられていれば、たとえケンカになったとしても、どうにかしていけると思うんです。 助産師/性教育YouTuber シオリーヌ Rine代表取締役。総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟に勤務ののち、全国の学校や企業で性教育に関する講演・イベントの講師を務める。性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。2022年10月性教育の普及と子育て支援に取り組むRineを設立。著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)、『やらねばならぬと思いつつ ~超初級 性教育サポートBOOK~』(ハガツサブックス)ほか。 取材・文/雪代すみれ 構成/種谷美波(yoi)