ポール・スミスに訊く、スーツの楽しい着こなし方
堅苦しくなりがちなテーラリングにも、常に独自の遊び心を注いできたポール・スミス。英国ファッション界のレジェンドに、スーツを楽しく着るためのアドバイスを尋ねた。 【写真を見る】ポール・スミスの手がけたスーツたち 英国メンズウェア界のレジェンド、サー・ポール・スミスは、靴下やカーディガンからランドローバーやライカのカメラまで、あらゆるものに彼のシグネチャーであるマルチストライプを施したことで知られる。しかし、ファッションへの彼の最大の貢献は、スーツをより楽しく着こなす方法を何世代もの男性に教えてきたことかもしれない。スミスはサヴィル・ロウで修業を積んだ後に独立し、50年経った今でも自身の名を冠したブランドのロンドン旗艦店で毎週土曜日に働いている。 80年代初頭の、全面にスパゲッティの写真をプリントしたシャツなど、スミスの創造性は多岐にわたることで有名だが、スーツを含め、そのどれもが唯一無二の高揚感を共有している。ベストセラーであるトラベルスーツの4つボタンカフスにあしらわれた「アーティストストライプ」のトリミングや、ピーコックカラーの裏地が付いたダスティピンクのベルベット・タキシードなど、スミスは色や柄で遊ぶことを決して恐れない。 そんなスミスに、生真面目になりすぎずにスーツを着こなすためのアドバイスを尋ねた。 ■ポール・スミスに訊く、スーツを楽しく着こなすための極意 ──あなたは週末も含めて毎日スーツを着ていると聞いたことがあります。スーツの何に一番惹かれるのでしょうか。 実用性と快適さです! 頭がおかしいのかと思われるかもしれませんが、よくできたスーツこそ最も快適な服なのです。それにポケットがたくさんあって、ペンやノート、眼鏡、携帯電話などを入れておける、というのもスーツのいいところです。スーツを着ると最高の気分になれますよ! ──デザインを始めた当初の目標は何でしたか。 最初の頃は、自分のアイデアやデザインを気に入ってくれる人がいたらいいなとだけ思っていました。自分を他のデザイナーと比較することはせずにね。私の服は決して奇を衒ったものではなかったし、私が作る服はすべて着やすいことが重要でした。それは今も変わりません。私は色や新しいテクニック、プリントで実験するのが好きなのです。遊び心がありながら、それでいて着こなしやすいものというわけです。 ──サヴィルロウでの経験から、テーラリングについて何を学びましたか。 テーラリングの夜間レッスンを通して、初めて服作りに触れました。仕立ての技術を真に理解することができた、素晴らしい学習経験でした。 ──それとは別の方向性を選択したのはなぜでしょうか。 私にはもっと遊び心があって、自分自身をデザインで表現したかったのだと思います。サヴィルロウでテーラーとして働いていたらありえないことですからね。 ──スーツや仕立てに関して、ご自身のスタイルをどう言い表しますか。 ひねりのあるクラシック。しっかりとしたシルエットで、裏地にポップな色やプリントを使ったもの。私たちの仕立てのほとんどはクラシックですが、よく見るといつもサプライズがあります。 ──(60年代の)モッズファッションがあなたの創作に長年影響を与え続けている理由は何でしょうか。 当時、自分の見た目を気にするのはラディカルなことでした。モッズたちはスーツをカスタマイズし、独自のデザインを考案し始めました。彼らのかっこよさと言ったら! 私がモッズ、パンクス、ニューロマンティックについて好きなのは、スタイルを通して自己表現がなされているという点なのです。 ──あなたの考える完璧なスーツとは? オケージョンやニーズによって、完璧なスーツは様々に変わってくると思います。もし1着のスーツに投資するのであれば、私たちの「A Suit To Travel In」スーツを選ぶのがいいでしょう。 ──最近よく着るスーツはどのようなものですか。 普段はクラシックなネイビーのツーピースを着ることが多いですが、特別な日にはもう少し大胆なものを着ることもあります。例えば、白のチェックが入ったダークグリーンのウールといったものなんかをね。 ──テーラリングに色や柄を取り入れるベストな方法は何ですか。 頭のてっぺんからつま先まで派手な色を取り入れるのはまだ抵抗があるという人は、裏地の色や柄で遊ぶといいでしょう! ステートメントスーツも一般的になってきていると思いますし、たくさんの色やスタイルから選べるので、誰にでも似合うものがあるはずです。 ──伝統的なテーラリングとカジュアルなアイテムを組み合わせるのにコツはありますか。 スーツは着る人のニーズに合ってこそ実用的なものになりますから、私がコレクションをデザインするときに考えるのもお客様のことです。「モダン ワーキング ワードローブ」は、時代の変化に対する私たちからの回答として生まれました。人々はオフィスとリモートワークを行き来するようになり、仕事のあり方も柔軟性が増していますから、スーツやテーラリングについても柔軟に考えるのは理に適っています。スタイリングとデザインの両方の観点から、私たちの提案もモダンにしなければならないと考えました。スーツは常に進化しているのです! ──服を着るときの個人的なルールはありますか。 自分が適切だと思う、気分がよくなるような服を着ることが多いです。ルールはありませんが、自分の服装にはいつもちょっとしたサプライズを加えたいと思っています。 ──着こなしにカラフルな柄物ソックスを加える最近の流行りはどうお考えですか。 テーラリングにいかに色を取り入れるかという先ほどの質問とも重なりますね。靴下で遊ぶのはそのためにはうってつけの方法です。私がクラシックなネイビーのスーツを着るときも、カラフルなものやストライプの靴下を履くのを好みます。意外な要素が加わりますからね。 ──過去と現在問わず、有名人や著名人のなかで、スーツを着るのを最も楽しんできたのは誰だと思いますか。 私の旧友、故デヴィッド・ボウイです。 From GQ.COM By Jeremy Freed Translated and Adapted by Yuzuru Todayama