学校のアンガーマネジメント―怒りを感じたら「6秒」待つ
事例3 とっさに言い返し、人間関係をこじらせてしまう小学4年生
クラス替えがあっても仲よく交流していた小学校4年生の女子。とっさに口にした言葉がきっかけで言い合いが始まりました。通りすがりにその様子を見て、思わず「けんかしている」と言ってしまい、2人から猛反撃を受けました。その言葉に担任の私の怒りが頂点に達し、怒ってしまいました。 何がいけなかったのか、どう対処すればよいのかがわからず、イライラが尽きません。
子どもはなぜ “キレる”のか 怒りの特性を知らずにいると
今回の事例のように、「なんで」と相手を責めてしまう、相手の状況を聞かずに自分の思い込みで判断して言ってしまう、あるいは相手に暴力をふるうことは「反射」にあたります。 「売り言葉に買い言葉」という言葉がありますが、相手に言われたからといって言い返す、仕返しをするなど、反射的な言動は本来の問題が解決しないばかりか、現状を悪化させ、後悔に繋がります。怒りはこれまで築いてきた人間関係、信頼関係などをいとも簡単に壊してしまいます。 怒りを感じるのは悪いことではありません。感情的になって、思うままに言ってしまう、やってしまうことがNGなのです。怒りの特性、怒りを感じた時の留意点を知れば対処できるようになります。これらを知らずにいると、怒りの衝動性に身を任せたままになってしまいます。 先生の対処を見てもわかるように、年齢を重ねれば怒りのコントロールができるようになるわけではありません。怒りについて理論と方法を学ぶことなしに対処はできないのです。
アンガーマネジメントを取り入れた対応 衝動のコントロール「6秒」
アンガーマネジメントは3つのメソッドから成り立っています。衝動のコントロール「6秒」、思考のコントロール「三重丸」、行動のコントロール「分かれ道」。この順に取り組みます。 まず、衝動のコントロール「6秒」。 怒りを感じて6秒が過ぎれば冷静な判断ができるようになります。6秒で怒りが消えてなくなる、6秒経てば怒ってよいと誤解されがちです。6秒で怒りがなくなるのではなく、理性が介入するのに6秒程度かかると考えています。その6秒を上手にやり過ごす、これが衝動のコントロール「6秒」です。 今回の事例では相手の状況を確認する前にとっさに言葉を発していて、6秒待てていません。6秒は自分が思っているより長いのです。その時間を意識だけで待つというのは至難の業。6秒待つためのテクニックのうち、「怒りの温度計」をご紹介します。 イラッとしたら温度計を思い浮かべてください。「0が穏やかな状態、10が人生最大の怒り」とし、今の怒りが何度なのか、温度をはかります。怒りの感情をコントロールしにくい理由の一つは尺度がないこと。数値化することで冷静になり、怒りを客観化し、対処ができるようになります。 自分の怒りは自分にとって正しいため、初めは数値を高くしがちだったり、温度を適切にはかれなかったりしますが、続けていくと温度の階段を作れるようになります。11月号の「アンガーログ」に、その時の温度を○/10と付け加えて記録してください。 「怒りの温度計」は急な怒りを静める対処術の一つ。他にも、「大丈夫!」と自分で気持ちを落ち着かせる言葉をかける「魔法の言葉」や、息をゆっくりと吐き切って身体の緊張をほぐす「呼吸リラクゼーション」などがあります。自分に合う対処術で、反射しない練習を重ねてください。6秒待って衝動をコントロールできたら、思考のコントロールへと進んでいきます。 川上 淳子 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントシニアファシリテーター。Edu Support Offifice代表。元宮城県公立小学校教諭。元国立大学法人宮城教育大学非常勤講師。 *『月刊教員養成セミナー2023年12月号』 コロナ禍を経て、なお先行きが見えない今、教室を安心安全な居場所とする働きかけが急務です。アンガーマネジメントの理論と方法は、児童同士、児童と担任を繋ぎ、よりよい関係づくりに活かすことができます。場面指導でも問われるケースを解説します!