競技歴4年目でベテラン抑えボディビル体重別日本2位 挑戦的バルクアップと減量末期でも重量落とさず絞り切る
「昨年は、圧倒的なバルク不足を痛感する悔しい結果でした。今年は様々な挑戦を重ねてきたので、結果に繋がりとても嬉しいです」 【写真】一年で劇的進化を遂げた藤井貫太朗選手の筋肉全身図と鬼気迫る絞り込み 9/8(日)、ボディビル体重別日本一を決める第28回日本クラス別選手権大会が、静岡県富士市ロゼシアターにて開催された。各階級において、キャリア勢と新規参入勢の入れ替わりが相次いだなか、特に激動となったのは70kg以下級である。
昨年の優勝者であり競技歴30年の大ベテラン須江正尋(すえ・まさひろ)選手をはじめ、同年3位の競技歴13年の内野充(うちの・みつる)選手、同年4位につけた競技歴20年目となる松尾幸作(まつお・こうさく)選手が2位にも入らない結末となった。優勝した吉岡賢輝選手は2021年で階級別優勝の経験もあり、どちらかと言えば順当な結果。しかし本年度2位となったのは、競技歴4年目の藤井貫太朗(ふじい・かんたろう/29)選手で、さらに予選審査では1位という結果から、一気にその名を全国に轟かせた。 余談にはなるが、本年度の日本クラス別選手権大会の動乱には理由がある。日本クラス別選手権大会は、主催であるJBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)が行う地方関連大会の上位入賞者が集い、例年、海外にて行われる世界選手権大会への派遣選手を選考する。しかし今年は少し違う。 JBBF会長を務める青田正順(あおた・まさのり)氏は開会の挨拶において「今年は開催地が国内となり、世界ワールドカップ選手権大会(12月16日~19日/東京都・有明コロシアム)の代表候補の選考が本大会で行われることに向け各地方大会でも参加者数が増加、参加者の95%が世界ワールドカップ選手権大会への出場を希望する、非常に熱意の高い年となっている」と語った。 藤井選手は、身長168cmとボディビルダーとしては平均的ながら、頭身の高いステージ映えするプロポーション、大腿四頭筋からハムストリングまで丸々と張り出した脚部、鮮烈に筋肉を浮かび上がらせる背中を持ち味とする。昨年の本大会では強みである脚部と背中への評価は高かったものの、全体的な筋肉量、特にサイドからの腕と肩の厚みなど上半身の差で6位という結果であった。そこで、藤井選手が今年の注力点としたのが、“筋肉量の大幅な増加”と“大きさを残したまま減量を行うこと”だ。 「昨年はオフの最大体重で78kgでしたが、今年は83kgまで増やしました。除脂肪体重から計算すると、筋肉量は3~4kg増えています。自分にとっては絞りが甘くなる(脂肪層の除去がおろそかになること。ボディビルでは筋肉の形をより鮮明にするため、脂肪は薄ければ薄いほど評価される)可能性もある大きな増量でしたが、どうしても大きくならねば勝てないと思ったため挑戦しました」 元々、効かせる感覚を意識しての中重量でのトレーニングから、苦手としていた高重量を用いたフリーウエイトを主軸として、可動域の許す限りフォームを崩さず扱うということにチャレンジしたという。その指導を行ったのが、大阪堺本町筋の完全会員制ジムReXeR(レクサー)の森本充俊(もりもと・みつとし)氏だ。森本氏は自身も素手とノーベルトで300kgのデッドリフトを行うなど高重量でのフリーウエイトトレーニングを得意とし、バルクアップに特化したトレーナーとして知られる。 「筋肉量の増加にフルに注力したオフ期を過ごしました。また、減量期に脂肪とともにどうしても落ちてしまう筋肉量の減少を最大限に抑え、代謝を落とさないように、扱う重量を落とさないように努めました」 増量期と減量期では筋肉の減少、摂取カロリーの不足により扱える重量が大きく下がるケースが多い。しかし、藤井選手の今期のBIG 3の推移はほぼ変動がない。メインセットの重量は、ベンチプレスは110kgから100kg、スクワットは160kgから155kg、デッドリフトにおいては200kgを減量末期においても維持したという。 また、減量に際しては経験則を脱し、科学的根拠に基づいたボディメイク指導を追求する“アスリートボディ”の本橋直人(もとはし・なおと)氏のコーチングを受けた。アスリートボディはボディメイクの名著として6カ国で翻訳され、10万部以上の販売数を誇る『肉体改造のピラミッド』を著した一人である、アンディ・モーガンを運営者として招くボディメイクのスペシャリストにより構成されるチームである。本橋氏の食事指導を採用した結果、過去一番の絞りになったと語る。藤井選手の殿部まで絞り込まれた鋭く切り込まれたような筋肉の浮き出しは、実に美麗だった。 「現状ではやれることはやりきったという気持ちです。今季は本大会で終わり、来シーズンに向け日本最高峰の舞台である日本男子ボディビル選手権でファイナリストになることを視野にさらに邁進したいと思います」
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材:にしかわ花 撮影:中島康介