「なぜ企業は大胆変革できない?」経営学者の視点 「エコロジーベースの進化理論」で考えると深く理解できる“驚きの結論”は?
一定の自然環境の中で生き残った生物種は、そこで維持され、我が世の春を謳歌するのが3つめのフェーズだ。 企業でいえば、その市場環境にマッチして生き残り、「社会的正当性」を得た企業は業界の主力企業となり、業績も向上する。 ベンチャー企業の「社会的正当性」の獲得は、たとえば株式の市場公開(IPO)という形で結実する。 【「VSRSプロセス」のフェーズ4】「苦闘」(Struggle) しかし、やがて環境は変化する。生物はDNA配列を変えられないので、環境変化に適応できず苦闘し、場合によっては死滅する。それが最後の第4フェーズだ。
たとえば、「マイマイガ」という蛾の一種がある。 産業革命以前のイギリスでは、豊かな林の中などで目立たない明るい灰色のマイマイガだけが、鳥からの捕食を逃れていた。 しかし18世紀後半の産業革命以降のイギリスは大気汚染がひどく、マイマイガがとまる建造物の壁などが黒色になり、むしろ明るい灰色は目立つようになった。結果、明るい灰色のマイマイガは捕食されるようになり、消えていったのである。 企業も同様だ。環境が大きく変化すると、苦闘の時期を迎える。
それまで快適だったビジネス環境に慣れており、そこで「社会的正当性」を得てきたからこそ、自らが大きな変化をすることは難しい。 やがて、淘汰される企業も出てくる。 ■どんな企業も宗教団体も、最初は「カルト」「セクト」 前回の記事から見てきたように、「ベンチャー企業の成長過程」と「宗教団体の成長過程」は、実に似た部分が多い。 どんな企業も宗教団体も、最初は「カルト」「セクト」なのだ。 やがて、その時の社会環境にフィットした特徴を持ち、「社会的正当性」を勝ち得た企業・宗教団体だけが生き残り、最盛期を迎える。
しかし環境が大きく変化すると、やがてそれまでのフィットや正当性が逆に災いし、苦闘していくのである。 このように、企業の進化を説明する「エコロジーベースの進化理論」の視点を通すことで、さまざまなベンチャー企業や宗教団体が、いまどのような状況に置かれているかも、理解しやすくなるはずだ。 特に現代は、環境や価値観の変化が激しい。 この理由で特に昨今は、急成長したベンチャー企業や宗教団体でも苦境に陥りやすいのかもしれない。
*この記事の前半:スタートアップは「マイルドなカルト集団」なのか
入山 章栄 :早稲田大学ビジネススクール教授