「讃岐うどんはもろちん、骨付き鶏もうまい」の間違いがわかるか…月刊誌で実際にあった"恥ずかしすぎる誤植"
■「校正って間違いを探すことじゃないんです」 「校正してください、と言いたくなりますね」 実は境田さんは日本校正者クラブの運営スタッフ。日本エディタースクールで講師もつとめている。 ――校正になっていない、ということでしょうか。 私がたずねると、彼が即答した。 「これでは文章のリライトです」 ――しかし、誤りを正したつもりなんですが……。 「校正って間違いを探すことじゃないんです」 さらりと否定する境田さん。確かに私は文章の中に間違い、あるいは間違いを生みそうな部分を探していた。 ――では、何をするんですか? 「確認するんです。文章の内容ではなく、文字遣いが合っているかどうかを一字一字確認する。合ってるOK、合ってるOK、という具合に一字一字確実に進んでいくんです」 彼は素読みでも指やペンで一字一字押さえながら進むらしい。 「そうしないと、すっと読んじゃうでしょ。ミスがあっても読んじゃう。内容を読んじゃうとミスを見落としてしまうんです」 ■校正者は思わず「歯噛みをした」 そういえば『いんてる』(第142号 2016年7月8日 以下同)に「ある誤植─―もろちん事件」という記事が掲載されていた。 ある月刊誌の旅行記事のリードに次のような文章が掲載されたという。 ---------- 讃岐うどんはもろちん、骨付き鶏も素朴にうまい。 ---------- 実に恥ずべき誤植で、校正者は思わず「歯噛(はが)みをした」という。しかし記事の担当者、進行担当、副編集長、編集長、社内校正者、社外校正者、出張校正者のいずれも誤植に気がつかなかったらしい。読者のひとりがパズル応募ハガキの片隅に「違ってますよ」とさりげなく書いたことがきっかけで誤植が発覚したそうで、それがなければ誰も誤植に気がつかなかったというのである。正直に言えば、私もこの記事を読んだ時、どこが誤植なのかわからず、ゆっくり一字一字読み直してようやくわかった。「もろちん」は間違いで、正しくは「もちろん」。私たちは「もろちん」を「きちんと脳内変換して『もちろん』と読み換えていた」のである。境田さんの言う一字一字確認するとはこのことなのだろう。「もろちん」はゲシュタルトとして読むと「もちろん」になってしまう。ゲシュタルトこそ誤りの元になるわけで、校正者はそれを分解して検証するのだ。