東京五輪自力出場消滅の伊調はなぜ敗れたのか? 遅れた新ルール対応と川井の冷静な計算とメンタル
新ルールは、川井有利に働くはずなのだが、長年にわたって植え付けられた伊調のタックル返しの怖さは、簡単には身体から出ていってはくれないそうだ。その恐怖感を克服した川井の“内なる戦い”は、想像を絶するものだったのだろう。 だが、伊調には、逆転の可能性が最後の数秒まで存在した。残り33秒しかなかったが、そこから攻めて左足にタックルを決めて場外へ押し出して同点とした。 「最後に伊調選手が入ったタックルは、川井選手を場外へ出して1点にしかなりませんでした。でもこのタックルは、逆転のチャンスだったんです。マットに対して45度の角度を保って入るタックルならば、相手は確実に倒れ2点を取れました。でも、伊調選手は平行に押し出すタックルしかしなかったので、川井選手は立ったまま場外に出ました。川井選手もそれが分かっていたのでしょう。おそらく1点を取らせて、試合時間の残りを減らすことを狙ったのだと思います。相手がタックルに入りたくなるような足の出し方をしていますね」 川井は、同点になってもビッグポイント差で勝てることを計算し、倒れず1点だけの失点に抑えて残り時間を潰したと小林氏は分析した。実際、残りは、2.71秒しかなく、伊調が低い姿勢から仕掛けた最後のタックルも実らなかった。 「伊調選手は、早く新ルールに沿った攻めパターンを作るべきでしたが、さすがに時間がなくて苦しかったことでしょう。復帰が、もう少し早ければ、とも思いますが、それでもここまでの試合をするのは、やはり凄いですね。勝った川井選手は、終盤に猛追された前回(明治杯決勝戦)の反省点が生きましたね」 世界選手権で川井がメダルを獲得すると東京五輪代表に内定する。下馬評では、優勝候補筆頭の川井ならば問題なく表彰台に上がるだろうと言われているが、小林氏は、「川井選手であっても“まさか”の瞬間に備えてタックルの精度を見直したほうがよいのではないでしょうか」と、今後の課題を指摘した。 「伊調選手が、最後に1点しか取れなかったタックルは、マットに対して水平に動く押し出すだけのタックルになりましたが、実は、川井選手のタックルもすべて同じような形でした。勇気を出し時間をかけて入ったタックルが1点で終わるのはもったいない。ぜひ、マットに対して45度の角度で2点以上を得られるタックルを使いこなして、世界のトップを、そして東京五輪の金メダルを確実にして欲しいです」 試合後にテレビのインタビューで川井は、「まだ、ここで終わりじゃないので、目標ぶれないように、今まで通り、もっともっと練習を頑張りたいと思います」と語っていた。 五輪4連覇の伊調を倒して世界選手権に乗り込む川井には金メダルを獲得しての東京五輪代表内定への期待が高まる。