「欠点を利点に 知恵と工夫で困難な現況も乗り越えられる」ジェーン・スー
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」のイベントではお芝居パートの脚本を書き、自らも占師役で出演してくださった岸本鮎佳さんが主宰する劇団「艶∞ポリス」の公演「見上げたらメンチカツ」を観にいきました。なんと、会場は学芸大学の居酒屋さん! お芝居って、芝居小屋じゃなくてもできるんですね。知らなかった。 お客さんは演劇を見に来た観客であり、同時に居酒屋さんのお客さんでもあります。飲食をしながら、目の前で繰り広げられるお芝居を楽しむ仕組みです。居酒屋さんの内装をそのままセットに使った内容で、どこからどこまでが板の上なのかわからないのが逆に功を奏し、臨場感たっぷりで楽しめました。 演劇はチケット代金が高すぎると、様々なSNSで嘆かれています。1枚2万円近くするものもあるそうで、2度3度と観たくても、お財布がそれを許さない。ファンとしてはチケットがもっと安くなってほしいけれど、劇団員の生活が苦しくなるのは本望ではない。今だって、贅沢ができるほど演劇だけで食べている役者さんは少数でしょうし。 舞台を作る資材費の高騰、チケット代を支払う観客の実質賃金がアップしていないこと、演劇が気軽に楽しめなくなった理由は様々でしょう。 それらを抜本的に解決することが本質ではありますが、社会の難題を一朝一夕で解消するのは困難。しかし、知恵と工夫で現況を乗り越えることはできる。そう教えてくれたのが岸本さんの舞台でした。 今回の舞台、チケット代はたったの3700円。飲食代は加算されますが、飲み食べしているのだから当然だ。
専門施設ではないので、できることは限られています。しかし、場所の特性から逆算して内容を考えれば、ボトルネックを取り除くことはできる。それ以上に、お芝居ができるわけなどなかった場所が、やり方ひとつでセットが最初から整った芝居小屋になる。 欠点を利点に。ハードルをアドバンテージに。逆転の発想力に感銘を受けました。上演時間が1時間と短かったこと、そのまま感想戦になだれ込めたのもよかったです。 できない理由とやらない理由は、挙げようと思えば無限に挙げられます。けれど、そこで終わってしまうことと、それを逆手にとって新しいものを見せることの結果には雲泥の差が。できる限り、私も後者でありたいものです。 じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。 ※AERA 2024年6月10日号
ジェーン・スー