ソン・ジュンギの恐るべき作品選びのセンス 代表作を更新し続ける稀有な俳優に
現在公開中の韓国ノワール『このろくでもない世界で』に出演しているソン・ジュンギ。殺伐とした世界観のこの映画の脚本に惚れ込み、出演を熱望したのだという。 【写真】『ロ・ギワン』では『このろくでもない世界で』の雰囲気とは正反対の穏やかなソン・ジュンギ そんな彼が俳優としてデビューをしたのは大学生の頃。ユ・ハ監督、チョ・インソン主演の『霜花店 運命、その愛』(2008年)が映画初出演作となった。この映画で、彼は演技や現場でのあり方などを学んだと語っている。 ソン・ジュンギが、多くの人に知られる存在となったのは、2010年のドラマ『トキメキ☆成均館スキャンダル』だろう。ひょんなことから女子禁制の名門校「成均館(ソンギュンガン)」に入学したヒロインと、国の未来を背負う学生たちが繰り広げる青春ストーリーかつ時代劇であった。 当時は、『コーヒープリンス1号店』(2007年)や、『美男<イケメン>ですね』(2009年)など、男性ばかりの中に、ひょんなところから女性が潜入することになるという作品が大流行。同様のシチュエーションの日本の作品『花ざかりの君たちへ』も2012年に韓国でドラマ化された。 『トキメキ☆成均館スキャンダル』の中でソン・ジュンギはプレイボーイ的な資質を持つ学生のひとりを演じた。人をじっと観察していて、特にヒロインの傍若無人な行動を「おもしれー女だな」という面持ちで見ているようなクールさが、当時の韓流ドラマによく見る人気の要素を持っており、一躍注目されたのだった。 このドラマの主要な登場人物4人が、「『花より男子』のF4のよう」と話題になり、日本でも人気が爆発。2011年には、サンリオピューロランドでファンミーティングも行われた。ピューロランドでの韓国スターのファンミは、当時でも珍しかったと思う。 また当時は、優しい癒し系の男性は「フンナム」と言われ、ソン・ジュンギはその代表格のように見られていた。その頃の韓国ドラマには、タフで強いイメージの俳優が多く、彼のようなタイプの俳優は少なかったのである。 その「フンナム」っぷりを発揮しつつも、イメージを裏切ったのが映画『私のオオカミ少年』(2012年)だろう。 パク・ボヨン演じる少女スニが、静かな村に引っ越し、そこでオオカミのように身をひそめる少年と出会い、彼はチョルスという名前をつけられ、家族とともに暮らすようになる。 少年は夜になると月にむかって吠えて……とあらすじを書くと「どんな映画なのだろう?」と思われるかもしれないが、とてもせつない結末に、大泣きしながら試写室を出たのを覚えている。 当時の韓国映画は、現在ほどの観客動員数を記録することは少なかったし、特にファンタジックなラブストーリーというジャンルのヒット作は今でも多くはないが、『私のオオカミ少年』は異例の700万人という観客動員数を記録した。 ソン・ジュンギはその後、ドラマ『優しい男』(2012年)で初めて主演を果たす。タイトルとは真逆で、心に闇を抱えた大人の男性を演じ、これまでの優しくて癒し系のフンナムのイメージを払拭したのだった。 2013年に兵役に就き、除隊後の作品として選んだのは『太陽の末裔~Love Under The Sun~』(2016年)だった。軍人と医師として出会った男女の運命と葛藤を描いた恋愛ドラマで、最高視聴率が41.6%というとんでもないヒット作となった。