ソン・ジュンギの恐るべき作品選びのセンス 代表作を更新し続ける稀有な俳優に
『ヴィンチェンツォ』でも唯一無二のキャラを作り上げたソン・ジュンギ
振り返ると、ソン・ジュンギは要所要所で、代表作と言えるような作品と出会っている俳優だ。このときの最高の作品とも言えるような作品に出会い、代表作は常に上書きされ、新たな作品が彼の代表作に代わるということを重ねている。それは韓国の映画界、ドラマ界においても珍しいことだろう。 彼の次なる代表作は『ヴィンチェンツォ』(2021年)だ。この作品では、幼い頃にイタリアンマフィアの養子となった韓国系イタリア人、ヴィンチェンツォ・カサノという主人公を演じた。 イタリアンマフィアの冷酷な顧問弁護士で、組織の裏切りにより韓国にやってきて、勝訴するためには、手段を選ばないこともあるというドライな「悪役」とも言える主人公は、韓国ドラマにおいても斬新で唯一無二の役であっただろう。 しかも、この設定で、ドラマ自体はコメディなのだ。普段は冷静に見えて、ときに熱い感情でイタリア語が漏れ出るような役で、新たに観客を魅了した。それだけではなく、彼の初期を代表する『トキメキ☆成均館スキャンダル』のキャラクター・ヨリムが霊媒師として登場。彼の代表作に彼の代表するキャラクターが出演するという心憎い演出も見られた。 その後もソン・ジュンギは2022年には『財閥家の末息子~Reborn Rich~』で、またもや話題をかっさらった。財閥グループに切り捨てられ、銃弾に倒れた主人公が、目を覚ますとオリンピックを控えた1987年のソウルだったというタイムリープもので、最終回では30.1%の視聴率をたたき出した。 この作品で、映画『KCIA 南山の部長たち』(2018年)やドラマ『ミセン-未生-』(2014年)などで有名な、韓国を代表する実力派俳優のイ・ソンミンと共演したことも、彼にとっての糧になったのではないだろうか。 そして、冒頭で書いた通り、ソン・ジュンギは映画『このろくでもない世界で』に出演。本作では、犯罪組織のリーダーという役で、裏社会のまさに容赦のない世界を表現した。 2024年はこのほか、チョ・ヘジンの長編小説『ロ・ギワンに会った』を原作に作られた『ロ・ギワン』もNetflixで配信が開始された。この作品では、ベルギーに脱北した北朝鮮出身の青年を演じている。今後は、小栗旬、赤西仁出演のNetflixシリーズ『ロマンチックアノニマス』への特別出演も発表されている。 いつの時代を振り返っても、韓国でもっともホットな作品に出演しているといっても過言ではないソン・ジュンギ。昨今は、そこに社会的な作品も加わるようになってきた。次はどのような作品でどんな役を演じるのか、楽しみでならない俳優だ。
西森路代