日本と同じ? イギリスでも法律上は「軍隊の保持」が禁止されている――今こそ、自衛隊と憲法9条について議論しよう。リベラルが読むべき1冊、保守が読むべき1冊とは。
無能力者のための憲法9条
さて、日本国憲法は第9条によって、(率直に読めば)我々に戦力の保持を禁じている。前者「戦争に負けてよかった」の立場から見れば、憲法前文にはいささかの違和感もないだろう。 〈日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した〉【2】 占領軍が「悪い日本人」を処罰・処刑し、自分たちのような(前者の)「善き日本人」を守ってくれた。そして、まだ愚かな日本人たちを教育し、諭し、導いてくれたと信じるなら、正義はいつでも「日本以外の諸外国」に在る。戦力を放棄して無能力者になることで、ご立派な外国人たちに「守っていただく」というのが、「非武装平和」の基本的な考え方である。 警察予備隊から始まる自衛隊の歴史は明らかに「非武装平和」と隔絶しているが、マスコミや日弁連、アカデミア、公教育界の関係者たちが棲む上っ面の世界では、長らく「非武装平和」が存在し得るものと主張されてきた。 そんな中、「戦争に負けてよかった」という立場を堅持しながら、非武装中立のまやかしを自覚し、妄想的平和論愛好家たちの中で孤軍奮闘してきた存在が木村晋介である。
木村晋介という例外
木村は、作家の椎名誠や沢野ひとしの親友であるということ以上に、硬骨漢の弁護士として知られる。オウム真理教による一連の事件では(殺害された)坂本弁護士一家の救出活動をおこない、柳美里『石に泳ぐ魚』をめぐる裁判では原告側の代理人を務めた【3】。 彼は日本共産党ときわめて密接な関係にある自由法曹団に属しているが、今から30年以上も前、当時は国会で少なからぬ議席を有していた日本共産党や社会党が「憲法9条に照らして、自衛隊は違憲である」などと主張していた1993年の段階で、自由法曹団の機関紙(団通信)に「自衛隊合憲論」(最小限の戦力保持は容認すべきだ)を投稿し、同通信のみならず、共産党の機関紙『赤旗』でも〈右転落者〉【4】として非難を受けていた。それでも彼は自由法曹団から離れず、団通信上で論戦を続けてきたのである。 評者はこれから、木村が上梓した『九条の何を残すのか 憲法学界のオーソリティーを疑う』(本の雑誌社)について、幡新大実『憲法と自衛隊 法の支配と平和的生存権』(東信堂)を用いて批判的なコラムを綴るが、この批判は「戦争に負けてよかった」と信じる集団の中で、木村が示す立場だけがほとんど唯一、「戦争に負けてよいはずがないと考えている日本人」とも議論と対話が成立し得るスタンスであるという、彼の誠実さに対する敬意に裏打ちされていることは強調しておきたい。
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