日本と同じ? イギリスでも法律上は「軍隊の保持」が禁止されている――今こそ、自衛隊と憲法9条について議論しよう。リベラルが読むべき1冊、保守が読むべき1冊とは。
戦争に「善悪」は存在するのか
本書「九条~」は、木村晋介と謎の女性の対話によって構成されている。瑤子は、某大学法科を出た25歳のシングルであるというが、実在するかどうかはさしたる問題ではない。著者は木村なので、文責も彼にある。 第1章において木村は、この80年間近く、国会で、新聞やテレビや学校の教室で、訳の分からないデモやSNSで気軽に口にされてきた「すべての戦争はいけない」という逃げ道を否定する。 〈どんな場合でも戦争をしないという選択は合理的でないように見えますね。すべての戦争がいけないということになると、結局やったもん勝ちになってしまうという〉【5】 なるほど理解できるが、続く後段はどうだろう。 〈日本軍国主義やナチスとは戦わず、やりたいだけやらせればよかった、と本気でいう人は少ないでしょう〉【5】 ここに欠けている、というより木村が見ないことにしているのは、戦前の日本やドイツにかぎらず、どのような勢力が相手であれ、諸外国に〈やりたいだけやらせ〉ないためには「戦争を認めること」が肝心なのではなく、どのような手段や武器を使っても「戦争に勝つこと」が肝心である、という当たり前の事実だ。そしてまた、当事者性だけに気を取られていると「国際公共善のためには行わざるを得ない戦争」にも目をつぶることになるだろう。 木村は戦争を「悪い戦争(侵略)/善い戦争(自衛)」に色分けする思考法にからめとられ、なされてしかるべき「戦争では勝たねばならない」という言い方ではなく、「悪とは戦わねばならない」という表現を選ばざるを得ない隘路に迷い込んでしまっているように見える。
刑罰としての憲法9条
その心理を逆説的に照射するのが、幡新大実『憲法と自衛隊』である。1966年生まれの幡新は東京大学法学部を出て、1999年にイギリス・ランカスター大学で博士号を取得。2003年には英国法廷弁護士(インナー・テンプル)の資格も得た、日英両国の法制度に精通する異色の研究者である。前掲書において幡新は、憲法9条の「意味/性質」について3つの解釈の可能性を提示する。 その1:刑罰説。 その2:平和的生存権の担保説。 その3:良心的規範説。 ごく簡単に〝超訳〟すると、次のようになるだろう。 刑罰説:二度と連合国に逆らえないよう、日本を恒久的に弱体化させる目論見によるもの、という解釈。 平和的生存権の担保説:イギリス権利章典(1689年)の第6条「平時に、王国内で、議会の承認なく、常備軍を設置、保持することは違法である」と同様の規定と見做す解釈。 良心的規範説:〈二度と戦争は嫌だ。軍国日本を復活させたくない〉【5】と考えた当時の日本人たちの考えが反映されている、という木村晋介(説)と類似した解釈。基本的には、戦争は悪いことなので、その手段となりえる戦力を持たない、という良心の表明。
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