“大学生捕手0人”でもなぜ22歳の独立リーガーはヤクルト5位を勝ち取ったのか…スカウトが語った「獲得の決め手」
スカウトに印象付けたチャンピオンシップでの活躍
また、「投手陣とコミュニケーションを取って、その日のベストボールを決めて配球するようになった」と、リード面でも日に日に成長の跡が見られるように。その集大成となったのがレギュラーシーズンでは前後期共に圧倒された徳島インディゴソックスとのトリドール杯リーグチャンピオンシップである。 年間王者を決める試合では、徳島1勝のアドバンテージを覆し、愛媛が2連勝で大下克上を達成。その中で、矢野は周到に大会前から罠を仕掛けた。 後期最終カードとなった9月15日の徳島戦では、本人曰く「気合いで」3度の二盗阻止を決め、相手の強みであった機動力を封じることに成功。加えて4番の加藤 響(DeNA・3位指名)ら切れ目がない徳島打線に対してもデータをつかんだ上で、その後のチャンピオンシップでは主導権を握らせないリードを貫いた。 「今年は練習から目の色を変えて取り組んでいた」と背番号「2」の努力を認めた愛媛の弓岡 敬二郎監督(元オリックス2軍監督)。歓喜の胴上げ直後には「安心してNPBへ送り出せる選手になった」にこやかに話したことからも、矢野へ全幅の信頼を置いていた現れだろう。 矢野の快進撃は日本独立リーググランドチャンピオンシップの地、栃木県小山市でも続く。日本海リーグの覇者・石川ミリオンスターズとの初戦では1回表先頭打者の二盗をタイム1秒83のドンピシャ阻止。「相手の足を封じることができた」と本人も納得の強肩を見せつけると、打撃でも決勝打。チームは準決勝で敗れたものの「やの・たいじろう」の名は確実に独立リーグファンの脳裏に刻まれた。 そして中四国地区を担当するNPBスカウトの記憶にも。「グランドチャンピオンシップでの二盗阻止が一番印象に残っている」と振り返ったのはヤクルトの押尾 健一スカウトである。「去年と比べて明らかにレベルアップしたのが目に見えてわかった」と今季早くから矢野に熱視線を送っていた中、「守備力も伸びたし、バッティングも勝負強さやしぶとさがついたし、リード面も吸収力があってプロの世界でもやれる」と判断した結果、必然の5位指名に。10月28日の指名あいさつでは「みんなに信頼され『矢野で負けたならしょうがない』と思えるキャッチャーになってほしい」とエールを送った。 実は子どものころから地元・坊っちゃんスタジアムでの東京ヤクルトスワローズ公式戦や秋季キャンプに何度も足を運んでいた矢野。「これから練習を積んでキャンプからアピールしたい」と意気込む22歳は、179センチ80キロの均整がとれた身体と積み上げた技術力、加えて「自分はライバルと思っている」と語る同学年の内山 壮真(星稜)をはじめとする先輩捕手との闘争を勝ち抜く闘志。 そして「これまで自分はずっと『矢野功一郎の弟』と言われてきたけれど、今度は兄が『あの矢野泰二郎の兄』と言ってもらえるような」故郷・愛媛県に明るい話題を提供する決意も胸に、神宮に歓喜を呼び起こす女房役への道を切り拓いていく。