日銀、マイナス金利を解除 : バズーカ空振りをごまかし続けた10年
軟着陸? リセッション? 米経済がカギに
今後の政策運営については、「緩和的な金融環境を維持する」とし、当面は低金利を維持しながら、慎重に利上げを進める方針とみられる。植田総裁は「物価見通しの上振れリスクが高まれば政策変更(利上げ)の理由になる」との認識を示したが、今のところ金融市場では「追加利上げは視野にない」(大手邦銀)という。 前回の利上げ局面(2006~07年)では、06年3月に量的緩和が解除され、同年7月に利上げが実施された。同様のパターンだと、今夏にも追加利上げが実施されることになる。ただ、この追加利上げが実現するかは予断を許さない。「米経済がリセッション(景気後退)入りするリスクがある」(別の大手邦銀)からだ。現状では「インフレもピークアウトし、米経済はソフトランディング(軟着陸)する」(外資系ファンド)との見方が多く、実際、米株も堅調だ。だが、これまでの米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な利上げが景気に強いブレーキとなり、「急速に不況色が強まるリスクがある」(大手シンクタンク幹部)のも事実だ。 米経済の不況色が強まると、日本経済も下押し圧力を受ける。また、FRBは積極的に利下げし、外為市場ではドル安・円高が進展するだろう。円安から円高への転換は、物価には押し下げ圧力となる。日銀の追加利上げは困難となり、「場合によっては低金利状態が長期化する可能性もある」(同)とみられる。植田総裁は「基調的物価上昇率がもう少し上昇すれば短期金利の引き上げにつながる」と述べたが、楽観的過ぎるかもしれない。
引き締めは長続きしないというジンクス
1998年に改正日銀法が施行されて以降、日銀の引き締め方向への政策転換は、長続きしない、という特徴がある。2000年8月のゼロ金利解除は、数カ月で景気判断の下方修正を余儀なくされ、翌年に量的緩和に追い込まれた。06年の量的緩和解除も翌年夏に「パリバショック」が起き、サブプライムローン問題が表面化した。 金融政策の成否は「ほとんど運」(日銀OB)という。植田日銀の今後の正常化が順調に進むには「相当な強運が必要」(同)なのは間違いだろう。
【Profile】
窪園 博俊 時事通信社解説委員。1989年時事通信社入社。97年から日銀記者クラブに所属し金融政策や市場動向を取材。SNSなどで発信する「本石町日記」の鋭い分析は、金融業界や政策関係者などプロもチェックしている。