元白鵬処分の内情と春場所の事情~浪速の熱気はすぐそこに
独自分析の奏功と縁深い2人
場所前から一つのトピックとなったのが、相撲列車の廃止だった。地方場所に乗り込むときに相撲協会が新幹線を手配して集団で移動。力士たちが降車して駅の階段を歩く場面が各メディアで流れ、その地にとっては年に1度の大相撲到来へ雰囲気醸成の一助となっていた。相撲列車がなくなることで盛り上がりに影響が出ないかと懸念の声が上がっていた。 少なくとも今年に関しては杞憂に終わりそうだ。2月10日にチケットの一般販売が開始されると、数日後には売り切れの状態になった。もともと大阪は相撲熱が高い。熱心な後援者を指す角界の隠語「タニマチ」は大阪の地名に由来し、大阪市に隣接する堺市の大浜相撲場は〝アマチュア相撲の聖地〟として知られている。 さらに春場所先発事務所を中心とした施策も奏功している。例えば、関係者によると、チケットがよく売れそうなエリアを独自に分析し、当該場所で炊き出しなど触れ合いの場を設けて積極的にアピール。先発事務所関係者は手応えを口にする。「昔からお相撲さんが街中を歩くこと自体が場所開催のいい宣伝にもなっていたが、新型コロナウイルス禍によってできなくなった。いろいろ試行錯誤しながら策を練り、大相撲が来ますよ、ということを少しでもPRできればいいなと思ってやってきた」。 大阪という土地柄も絡み、ことさら活躍を見込まれそうな力士が平幕にもいる。西前頭筆頭の朝乃山は2020年春場所後に大関に昇進。不祥事で6場所出場停止となった後で番付を戻してきた。所属する高砂部屋の歴代師匠には、優勝5度のうち4度を春場所で成し遂げ「大阪太郎」の異名を取った元横綱朝潮がいる。また、高砂部屋宿舎は現在でも唯一、タニマチの語源となった大阪市中央区の谷町エリアに構えられるなど縁が深い。入幕2場所目の大器、西前頭5枚目の大の里にとっては、プロとして初めて春場所の土俵に立つ。日体大1年時には大浜相撲場で行われた全国学生選手権の個人戦を制し、1年生として29年ぶりの学生横綱。アマチュア時代から大阪で躍動していた。 役力士たちに加え、この2人が白星を重ねていけば、優勝争いががぜん熱を帯びていくことは必至だ。宮城野部屋や宮城野親方の処遇という場所後の懸案事項を抱えながらも、土俵では群雄割拠の白熱した闘いが予想される。
高村収