水川あさみは常に“イメージ”を更新していく 『笑うマトリョーシカ』道上の多彩な表情
6月28日から放送がスタートしたTBS金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』が佳境を迎えようとしている。第7話のラストでは、道上(水川あさみ)が、黒幕だと信じて疑わない清家(櫻井翔)の母親・浩子(高岡早紀)とついに出会う。毎週、どんな展開が待ち受けているのか、物語だけではなく、俳優陣の一挙手一投足に注目しながら観ている方も多いのではないだろうか。 【写真】道上(水川あさみ)の表情を捉えた場面カット(複数あり) 本作は、人間の欲望と謎が絡み合うヒューマン政治サスペンス。印象的な笑顔とリベラルな言動で人気を集め、未来の総理候補との呼び声も高い若き政治家・清家(櫻井翔)と、そんな彼を支える有能な秘書・鈴木(玉山鉄二)の2人の奇妙な関係性に違和感を覚えた新聞記者である道上が、彼らの過去を探っていくうちに、複雑な事件へと巻き込まれていく。本作で主演の敏腕新聞記者・道上を演じているのが水川あさみである。 緊迫感のある怒涛の展開が続き、誰が黒幕なのか計りきれない部分があるが、その中でも水川が演じる道上は、さまざまな思惑が交錯する中で、強い信念を持ち続け、まっすぐに父の死の真相と清家を操る黒幕の正体を暴こうと奮闘する、作中の中でもきわめて純粋なキャラクターだ。水川は、そんな記者としての強い信念を持った道上を多彩な表情で魅せているのだ。 水川が多くのドラマや映画に出演し、実績を積み上げてきた俳優であることは言うまでもない。遡れば、映画『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(1997年)で俳優としてのキャリアをスタートさせると、ドラマ『大奥』(フジテレビ系)や『西遊記』(フジテレビ系)、『のだめカンタービレ』(フジテレビ系)など、その年を代表する人気作に出演し、俳優としての地位を築き上げた。とは言いつつも、水川にとって代表作とは何かと問われると、少々考え込んでしまうのは否めない。だが、それは水川が印象的な演技をしていないからではない。どの作品も「こんな水川あさみが見たかった」と思わせる作品ばかりなのだ。それはひとえに、どのジャンル、どのキャラクターにおいても、すんなりと馴染んで溶け込む水川の演技力があってこそだ。 筆者が、水川が出演してきた膨大な作品の中で印象に残っているのが、2008年に放送されたドラマ『33分探偵』(フジテレビ系)だ。同作は堂本剛演じる主人公・鞍馬六郎が独自の迷推理を繰り広げ、犯人が明らかになっており事件解決間違いない状況下で、CMの時間を除いた33分間その事件を持たせるというシチュエーション推理劇。水川が演じた武藤リカコは、「鞍馬六郎探偵事務所」勤務の助手で、的はずれな推理をする六郎に対してツッコミを入れる。堂本と水川の関西弁の掛け合いが面白く、唯一の真面目キャラでもある水川の存在はボケの応酬が続く作品に欠かせないものとなっていた。 最近では母親役を引き受けることも増えており、映画『喜劇 愛妻物語』(2020年)では濱田岳演じるダメ夫・豪太に対して、「しつこいんだよ」「消えろ」と毒舌を繰り出す妻・チカを気迫たっぷりに演じたかと思えば、『ミッドナイトスワン』(2020年)では髪をオレンジ色に染め上げ、娘をネグレクトするヒステリックな母親を演じた。2023年には朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)において、ヒロイン・スズ子(趣里)の母・ツヤ(水川あさみ)を演じたのも記憶に新しい。ツヤは快活でいて懐の深い、人情味に溢れた女性で、スズ子にとって常に太陽のような存在であり続けた。水川のキレの良い関西の母親像は作品の温度感を間違いなく作り上げていた。 今回の『笑うマトリョーシカ』は、水川の俳優としてのまっすぐさが遺憾なく発揮された作品となっている。公式サイトのコメントで水川は、「演じれば演じるほど、彼女の純粋で真剣な思いに触れることが増えてきました。さまざまな思惑が渦巻く中で、父の死の真相と清家たちの関係を絶対に暴くんだという思いを純粋に強く持ち続けるところが彼女の一番の魅力だと思います」と役への印象を明かしている(※)。 先ほど、どの役でも馴染む俳優であると書いたが、放送が始まる前から今回の正義感が強く、物語をグイグイと動かしていく役にもきっとハマるだろうと思っていた。過去にスクープした議員が自殺してしまったことから炎上を経験した道上だが、その過去を抱えながらも、自らの正義のために新聞記者の仕事を全うする。その覚悟に満ちた表情を水川は力強く表現していた。