水川あさみは常に“イメージ”を更新していく 『笑うマトリョーシカ』道上の多彩な表情
道上(水川あさみ)を中心にした“掛け合い”はドラマ版ならではの魅力
原作では清家の視点から物語が進んでいくが、ドラマでは水川演じる道上が主体的に事件の真相を追求していく。ドラマはあくまでも道上視点の物語であるのに対して、原作では清家や鈴木、道上など複数の視点から語られており、物語がより立体的に描かれているのが特徴だ。その原作における特徴を生かすために、ドラマでは水川を中心とした役者同士の掛け合いが見どころのひとつとなっており、それぞれが怒涛の会話劇を繰り広げていく。 第1話では父・兼髙(渡辺いっけい)の事故死というショッキングな出来事から幕を開けるが、それに動じることなく、事件の真相を突き止めるために、資料を集め、清家と接触することに成功する。そこから道上が父親の取材ノートをもとに清家と鈴木を追い詰めていく様は爽快だった。水川の力強い視線とメリハリの効いたセリフ回しからは、新聞記者の輪郭をくっきりと描き出していた。その一方で、家族とのシーンでは、ピンと張り詰めた表情ではなく、母親としての柔和な笑顔で接しており、1人のキャラクターを多面的に立ち上げている。その道上の多面性を強固な軸を持った水川が演じるからこそ、作品に安定感をもたらしているのだろう。 それにしても、本作における水川のエネルギッシュな立ち回りからは余裕さえも感じられる。主役としての立ち振舞いだけではなく、新聞記者という役であるがゆえに、周囲を立てるという役回りも求められる。決して簡単ではない役にもかかわらず、水川の演技には気を張っている感じが一切しない。それは経験と年齢を重ねた今だからこそ、魅力的に演じられているのだろう。クライマックスまで存分に水川の豊かな演技を堪能したい。 参照 ※ https://realsound.jp/movie/2024/06/post-1699138.html
川崎龍也