『プリシラ』ソフィア・コッポラにインタビュー
──盛りに盛ったブラックヘアに、目尻を跳ね上げたキャットライン、フェミニンなドレス。エルヴィスといた頃のプリシラのルックは伝説的ですが、劇中ではその装いが彼の好みによるものだったことも描かれます。その事実をどう思いますか? 「エルヴィスはプリシラを自分の理想とする姿に変身させました。彼女も最初のうちは、エルヴィスからファッションを学んだり、ほめられたりすることに喜びを感じていたんだと思います。でもそのうちに彼から離れ、自分自身のアイデンティティを見つけなければならないと気づいた。女性が男性のために着飾る習慣は過去の産物ではあるけれど、ある種の文化でもあると思う。つまり、好きな格好をするのが一番だけど、外からの影響ももちろんあるということ。そういう意味ではプリシラは常に、自分が正しいと思うアイテムを選んで身につけていたのかなと」 ──劇中、エルヴィスがどんどん華美な格好になるにつれ、プリシラの装いは逆に落ち着いていきます。その移り変わりは、ストーリーテリングと密接に関わり合っていますね。 「そう思ってくれてうれしいです。衣装やセットを決める上では、まさにキャラクターのことを第一に考えているから。ドイツパートは殺風景で物悲しい色彩だけど、メンフィスパートは強烈に鮮やかです。そして、エルヴィスがラスベガスでかの有名なコンサートを行う時代に入っていくにつれ、プリシラはキャットラインをやめ、自然な髪色に戻し、よりナチュラルな姿になっていく。エルヴィスの着せ替え人形のようだった彼女が、自分らしさを取り戻していくさまを、衣装で表現しようとしたんです」 ──プリシラは当初、ずっとハートモチーフのチョーカーをつけていますが、グレースランドで暮らし始めてからは外しているのもどこか象徴的です。 「あれはプリシラが実際に持っていたチョーカーをもとにしていて。ハートのロケットの中に、彼女がまだ幼い頃に事故で亡くなった、実のお父さんの写真を入れていたというビハインドストーリーがあるんです。あのチョーカーをいつから外しているか、私自身は明確には覚えていないんですが、たしかにステイシーはかなり意識して考えていましたね」 ──劇中のウェディングドレスは〈シャネル〉によるオリジナルだそうですが、ぜひ詳しく教えてください。 「素敵なプロセスでしたし、大いに助けられました。この映画は何せ小規模のプロジェクトだったから、ステイシーが一からウェディングドレスを作り上げるとなると、予算を大幅にオーバーしかねません。シャネルの素晴らしい伝統と技術があればこそ、単なるレプリカではなく、彼らの解釈で作ってほしいとお願いしました。あの美しいドレスが大きな木箱に入って届いた時は、ものすごく興奮しました。さらに、それを着たケイリーを見た時の気持ちといったら。結婚式の場面は、二人の物語においても特に象徴的な瞬間ですから」