「しみじみうれしい」第168回芥川賞の井戸川射子さん会見(全文)
今後どのような書き方を試したいか
記者:共同通信社の【スズキ 00:23:23】といいます。このたびは、ご受賞、おめでとうございます。先ほど来、今回の小説の二人称という、その印象についてお話出てますけれども、事前取材の中で、いろんな書き方を試していきたいというふうなお話をされていました。今回、選考委員の方の選評の中でも、二人称が作品とも非常に合っていたというふうなお話ありましたけれども、いろんな書き方のチャレンジというところで、今後さらに作品を書いていく中で、どのように試していきたいかというところを伺ってもよろしいでしょうか。 井戸川:韓国の韓江(ハン・ガン)さんとか、詩人でもあって小説も書いてあったりされてて、詩と小説のあわいというのがどこにあるかはやっぱり個人で違ったり確定できなかったりすると思うんですけど、そこをちょっと私なりに、どこまでがいけるのかなっていうのをやっていきたいですね。 記者:選評の中では、言葉1つ1つが粒立っていて素晴らしかったというふうなお話もあったんですが、先ほど、言葉を上手に使いたいということもありましたけれども、小説を書いてるときと詩を書いてるときと、先ほど詩は叫びというふうな話もありましたけど、言葉選びとか言葉遣いとかで、どういうふうな意識の違いがあったりするのかっていうところも伺ってよろしいですか。 井戸川:言葉選びはそんなに違わないかもしれないです。単語選びというか。文章のつなげ方とかが、小説のほうが、そうですね、分かりやすく書いているという意識はあります。
読者にどう読んでもらいたいか
記者:あと、ちょっと先ほどの話に戻っちゃうかもしれないんですけど、二人称で書かれていたことについて、選考委員の中でこういう意見があったということなんですけれども、世の中で育児につらさなんかを覚えている人たちに対する呼び掛けとしても読めるんじゃないかというふうな意見があったみたいなんですけど、今回、ご受賞されて、多くの方が本を手に取る、さらに多くの人が手に取るんじゃないのかなと思うんですけれども、そういう人たちに、どういうふうに読んでもらえたらいいなというふうに思いますか。 井戸川:やっぱり、育児も大変だけど、なんかやっぱり忘れていっちゃうというか、日々の尊さって。生きてるだけで素晴らしいし、生まれてきただけで素晴らしいんですけど、それを忘れていっちゃってて、私は。それを、1人でも2人でも何人でも、家族でもなんでも、そこにいるということが喜びだし、喜びはつくり出せるし、別に家族が素晴らしいとかも思ってないというか、そこに固定したくないし、登場人物たちは家族じゃなくても、ゲームセンターの中で何かを取り囲んで、みんなで笑える、そういう関係もいいし、でも主人公がマッサージ屋さんに行くんですけど、それでやっぱりマッサージ、人にしてもらうと気持ちいいし、でもそれって人がいなきゃ気持ち良く幸せじゃないっていうことじゃなくて、自分1人のストレッチだったとしても体の筋を伸ばせば気持ちいいし、1人でも喜びはあるし。だから、いろんな喜びっていうのを私は忘れないようにしたいなと思って書きました。 記者:あと最後にすいません、第1詩集を出されて中原中也賞を取られて、で、初の小説集で野間文芸新人賞を取られて、今回、芥川賞ということで、かなりデビューされてから早いペースで評価がされてきたと思うんですけど、この時間をちょっと振り返って、ご自身では今どのように受け止めているか、伺えますか。 井戸川:そんなに、やっぱり一歩一歩、踏みしめるように、1日、2枚3枚書いて、ああ、今日は2枚3枚書けたっていうふうにやってきたので、そんなに早かったというか、そういう気持ちではないかもしれないです。 記者:最後にじゃあ、今後の執筆の抱負みたいなものを聞かせていただいても。 井戸川:いろんなものを書いていきたい、詩も小説も。短歌とかも好きなんですけど。上手に書いていきたい、自分がいいと思うものを書きたい、と思います。 記者:ありがとうございました。
最後に一言
司会:はい。では次を最後の質問といたしたいと思います。いかがでしょうか。よろしければ、井戸川さん、最後に、今の質問などを受けて、一言、おっしゃりたいことをどうぞ。 井戸川:はい。本日は本当にありがとうございました。すごくうれしいです。これからも頑張っていきます。以上です。 司会:はい、ありがとうございました。井戸川さん、おめでとうございます。 (完)【書き起こし】第168回芥川賞の井戸川射子さん会見