日本の農作物の品種を守れ もぐもぐタイムの“韓国イチゴ”で危惧
海外での品種登録を目指す開発者も
日本品種の海外流出は、イチゴだけではない。農業の研究機関である農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が開発したブドウ「シャインマスカット」も、中国と韓国に流出している。同機構は2007年から2012年の間に流出したとみており、「残念。それ以上言いようがない」と無念さを隠さない。2016年に行った中国での現地調査で、シャインマスカットの木を発見したが、どのような経緯で栽培されたのか、現地関係者から聞き出せなかったという。こうした海外への流出例は、他にいぐさや小豆、菊などがある。 危機感を抱く育成者の中には、海外での品質登録に取り組むところもある。 静岡県は2017年、中国と韓国、台湾で、同県が開発したイチゴの「キラピカ」の品種登録を出願した。静岡県には過去、イチゴ「紅ほっぺ」が海外に流出した苦い経験がある。同県経済産業部農業局は「登録されれば、相手国の法で育成者の権利が守られる」と期待する。 海外での品種登録に要する費用は、国によって差はあるが大体100万円から200万円ほど。農水省は2017年度、海外での品種登録に必要な経費の半額を支援する事業を実施。2018年度予算案にも、出願経費の支援を含む流出防止対策事業を盛り込んでいる。
検疫が品種登録のネックになる可能性
農業・食品分野の知的財産に詳しい吉永国際特許事務所の吉永貴大(たかひろ)弁理士は、海外での品種登録を進める上で、農作物が病害虫などに汚染されていないかどうかを確認する「検疫」がネックになる可能性があると指摘する。 日本を含む諸外国では、病害虫の侵入を防ぐために輸入を禁止する農作物を定めている。海外で品種登録をするためには、検査用にその品種の種や苗をその国に輸出することが必要だ。吉永弁理士が懸念するのは、その国で輸入が禁じられている品種の種苗が、日本から非合法的な手段でひそかに持ち出された場合だ。「その国でその種苗が栽培され、作物が市場に出回っても、品種登録が行われていないと、当然日本側は権利侵害だと主張することができない」。流出先の国で輸入が禁止されている農作物だった場合、登録するための種苗さえもその国に持ち込めないからだ。 吉永弁理士は「品種登録に必要な種苗はわずかな量。こういった場合はその国への輸入を認めてもらうなど、例外的な措置を国際的に検討することが必要」だと提案する。 【ことば】品種登録制度…農作物で新しい品種を開発した人(育成者)に、その品種の種や苗、収穫物、加工品の販売を独占できる「育成者権」を認めるしくみ。日本の場合、権利期間は最大25年、ブドウのような木に実る農作物は同30年。ただし、効力は国内のみで、他の国でも権利を主張するには、その国でも品種登録が必要となる。 (取材・文:具志堅浩二)