『まほあく』を彩った綾奈ゆにこの脚本術 4コマ漫画からアニメ版へ引き継がれた“美しさ”
アニメ『まほあく』から学んだ“キュン”な心の動き
ーー原作の最後は、悪の組織で心理テストが流行する、かなりコメディな回でしたよね。原作は未完ですが、アニメの着地はどうなるのでしょうか? 綾奈:心理テストが流行する裏で、白夜ちゃんがまた悪の組織に捕まって幽閉されている話ですよね。もしその話をアニメ終盤で描く場合、何かしら……クライマックスっぽい描写を足さなくてはいけなくなります。藤原先生にお尋ね出来ない以上、それは避けたくて。ミラと白夜の関係性がこの先どうなるか、漫画以上に進めてはいけないと考えました。藤原先生の当時の担当編集の方と、密に打ち合わせをさせていただきながら、「今ある材料の中での(アニメ作品としての)ベストな着地」を考え、構成しましたので、最後までぜひご覧いただけますと幸いです。 ーー実際に完成した映像を見てみて、いい意味で裏切られたなと思った瞬間はありましたか? 綾奈:全編ですね(笑)。コンテ段階から素敵なアニメになりそうだという確信はありましたが、実際に完成した映像を見ると本当に素敵で。大橋監督は脚本を進めていく段階から、自らイメージボードを描いて視覚的な世界観の共有をしてくださったんです。悪の組織のお城はどんな感じかとか、みんなの身長対比とか。監督がどんどんイメージを出して下さったので、私もワクワクしながら脚本を書いていました。 ーー変身のシーンも素晴らしかったです。 綾奈:「これぞ変身バンク!」って感じですよね。でも、本当に想像以上で。白夜ちゃんが星の海にズボッと入っていくシーンには「そういうことしてくれるんだ!」と感動しました。一つひとつのシーンが素敵になるように、大橋さんが描写を足してくださっていて。例えば、白夜ちゃんの戦闘シーンで、私の脚本ではドラゴンを倒すところまでは書いてなかったんです。でも、コンテを見たら、「えっ! ドラゴンと戦ってる!(笑)」って。しかも一発で倒すので、白夜ちゃんが強い魔法少女だってことが一目で分かるんですよ。 ーーミラとの掛け合いのシーンでも、同じような演出の工夫があったり? 綾奈:第1回で、ミラのおでこに白夜がおでこをつけるシーンがあるんですけど、そこでちょっと背伸びをするカットが入るんです。椅子に座ってる状態から立ち上がるときの足元が映っていて。ワンカットでドキッとするような、至るところにそういう素敵なときめきを足してくださっていて、私も映像を見るたびに「うわぁ」と感動しちゃって。「これがキュンってことか!」と。花やモビール等のアイテムの使い方も素敵で、そういった大橋さんのお仕事を間近で見られたのが、本作すごく嬉しかったです。 ーーそうした画作り以外だと、やはり声が聞こえるのもアニメの魅力ですが、今回のキャストはドラマCDと同じ方々ですよね。 綾奈:私も最初からそうだったらいいなと思っていました。このタイトルは、藤原先生の作品をアニメ化したいとずっと温めていたもので、大前提として、漫画のファンの方に大事にお届けしたいという思いがありました。既にあるドラマCDのキャストさんたちは藤原先生が認めた方々ですから、そのままがいいなと思っていたんです。あと、私はエンディングがすごく好きで。2人のデュエットを聞いたときに、特にこのおふたりでよかったなと思いましたね。 ーー綾奈さんが、原作のある作品を担当されるときのポリシーについて聞かせてください。 綾奈:まずは世界観を守ることです。そして、いつも考えているのは作者の方に喜んでいただきたいということ。今回は、藤原先生だったらどう描かれるだろうと思いを馳せながら、漫画の担当者さんや現場にいる作品が好きな方の声を大切にしました。 ーー世界観というのは、具体的にはどのように捉えていますか? 綾奈:空気感だったり、キャラ同士のやり取りですね。一人一人の語彙も気にします。今回特に参考にしたのはドラマCDです。実際に藤原先生がシナリオを書かれているので、4コマのテンポ感をシーンとして描くヒントになりました。 ーーお話そのものの構造よりもキャラクターの心の動きに興味がある、ということでもあるのでしょうか? 綾奈:どちらかと言えば、そうですね。まずキャラクターが今何を思っているか、事象に対してどう思うかを確認してから話を作りたいです。話のためにキャラを動かすのではなく、その人らしい言動で物語が展開してほしい。その人らしく生きていてほしいと願っているんです。 ーー今回は脚本と構成を担当されていますが、シリーズ構成で各話のライターに脚本を描いてもらうときなどにも、やはりその部分を気にされることが多いのでしょうか? 綾奈:そうですね。やっぱり一番はキャラクターなので。セリフもわりと具体的に、「こういうこと言いそう」と提案します。 ーー構成において、他に意識的に取り組んでいるポイントがあれば教えてください。 綾奈:私の場合、各脚本家の方が取り組みやすそうな回を発注するようにしています。その人の得意分野が分かったら、それに合わせて話を振ります。例えば、コミカルなやり取りを描くのが得意な方には、楽しい回を担当していただこうとか。ドラマや心情描写が得意な方には、繊細な心情が大事な回を担当していただこうとか。「このキャラクターのこういうところが見たい」という欲望がある方には、そのキャラクターのメイン回をお願いしたりします。好きならそれだけ深く考えられますし、好きなものを書けたら楽しいですよね。 ーーシリーズ構成の仕事において、モチベーション管理も重要な要素なのですね。 綾奈:シリーズ構成って中間管理職みたいなものなんです。監督、プロデューサーがいる中で、間を取り持つ立場なんですよ。最終ジャッジは監督がするんですが、その手前で脚本家の立場からジャッジするのがシリーズ構成なんです。皆さんが気持ちよく書けるように仕事を発注することはもちろん、各話の統一感を保つことや、ずれてきた部分の調整なども大切な仕事ですね。あと、監督との関係性も気にするタイプなのですが、今回は監督の参謀でいようと思いました。旗を振るのは監督で、監督のアイデアを脚本に落とし込むにはどうするか考える。大橋さんは脚本家としての私の意見も聞いて下さったので、ありがたかったです。 ーーでは最後に、綾奈さんご自身が今後挑戦したい、あるいは描きたいと思うテーマはありますか? 綾奈:引き続き、男女の恋愛ものは挑戦ですね(笑)。今回、『まほあく』という素晴らしい作品に携わって「キュン」を学ばせていただいたので、脚本を書くにあたっての苦手意識は無くなった気がします。ジャンルで言えば百合が好きですが、得意・不得意関係なく、人物の心情を大事に、これからも様々な作品に取り組んでいきたいです。
すなくじら