『まほあく』を彩った綾奈ゆにこの脚本術 4コマ漫画からアニメ版へ引き継がれた“美しさ”
何年経っても色褪せない物語がある。長年温められてきた企画がついにアニメ化を迎えた『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』(以下、『まほあく』)。本作は、藤原ここあ原作の人気ロマンチックラブコメディだ。世界を滅ぼそうとする悪の参謀・ミラと、地上侵略の危機に立ち上がった薄幸魔法少女・白夜の“殺し愛(あ)わない”日々を描く優しい世界観が、多くのファンを魅了してきた。 【写真】白夜に「限度額の限り貢ぎたい。」と葛藤するミラ 8年前に一度企画が立ち上がるも、原作者の急逝により中断を余儀なくされたアニメ『まほあく』。しかし、2023年の連載10周年を機に、ついに実現の日を迎えた。まさに「ファン待望の」アニメである。 リアルサウンド映画部では、『まほあく』の制作に携わった“3人の女性たち”の目線から作品を掘り下げていくインタビュー企画「藤原ここあの世界を彩った女性たち」を展開。脚本を手がけた綾奈ゆにこをはじめとするスタッフ陣にインタビューを行い、それぞれの視点から『まほあく』の魅力を紐解いていく。 第1回は、『BanG Dream!』や『ギヴン』で知られる脚本家の綾奈ゆにこ。彼女の制作過程での様々な取り組みは、かわいらしくもどこか切なさもある本作の魅力をさらに引き出すものとなっている。愛らしいキャラクターたちの魅力を最大限に引き出す綾奈の手腕によって、アニメになった『まほあく』はどのように作り上げられたのか。 ●意識していたのは、白夜を“あざとくしないこと” ーーアニメ『まほあく』に参加することになった経緯から教えてください。 綾奈:監督の大橋(明代)さんからご指名いただきました。以前、OAD『ギヴン うらがわの存在』で初めてご一緒させていただき、「また一緒にお仕事したい」とお名前を挙げていただいたんです。アニメの製作委員会も、今回は女性陣でメインスタッフを組みたいという方針があったので、委員会と監督の意向に当てはまったのが私だったのかな、と。ただ、これまであまり男女の恋愛もののタイトルを手がけてこなかったので、最初は「私でいいのかな」という不安もありました。 ーーそこから参加をすることを決定するにあたって、なにか背中を押されるようなことがあったのでしょうか? 綾奈:監督やプロデューサーさんとお会いしたときに、「(今回のアニメ版を)誰に向けて作るんですか?」と質問させていただいて。そこで「魔法少女が好きな女性に向けて作りたい」というお話があったんです。私も昔から『カードキャプターさくら』や『おジャ魔女どれみ』が好きだったので、その方針はいいな、と。 ーーそうだったんですね。女性がターゲットとお伺いしましたが、そもそも『まほあく』の原作って、やや大人っぽい、男性向け漫画にあるような描写も多々ありますよね。 綾奈:そうなんです。漫画を拝読したときに、白夜ちゃんのお色気描写がちょこちょこあったので、「この作品はどういう方向に振るんだろう」とは思いました。アニメは一応女性向けに作っているので、描写については監督がすごく気を付けていらっしゃいます。お色気のあるシーンも、扇情的にならないように、あくまで“美しく作ること”を念頭に気を遣っていますね。 ーー確かに、白夜の描き方がとにかく美しかったです。 綾奈:よく議題に挙がっていたのは、「白夜ちゃんをあざとくしない」ということなんです。ミラがドキッとするような行動が度々あって。でもそれは白夜ちゃんが相手をドキドキさせようと思ってやってるんじゃなくて、彼女にとっては、あくまで何気ない当然のこととしてやっている。そういう調整は監督と相談しながらやってました。また、監督から最初の段階で、この作品を始め、藤原(ここあ)先生の作品は「寂しさ」がキーワードだとうかがったので、そこは指針にしました。例えば、第3回でミラと白夜が初めて一緒にご飯を食べるシーンがあって。 ーー家で一緒にシャトーブリアンを食べる回ですね。 綾奈:漫画ではご飯を食べるシーンは省略されていて、そこはオリジナルで描いてるんですけど、ドラマCDから親の話を取り入れました。ミラがお母さんの話をして、そのときに白夜ちゃんに少し寂しさがにじむ。そういうところは意識していました。 ーーそういう繊細な空気感が、アニメ映像の中でも柔らかく流れているようなところが印象的でした。 綾奈:漫画を拝読したときに、繊細な空気感がとても素敵だなと思って。4コマなので、コミカルだったり楽しかったりするんですけど、心の柔らかいところに寄り添うようなやり取りもあって。その両方を持っているところが、このタイトルの大事なところかなと。 ーー第2回のミラのコートに白夜がアップリケをつけるシーンは、まさにそういった部分だった気がします。 綾奈:そうですね。アップリケをつけるくだりはコミカルですが、そのコートを新調せず、そのまま大事に着続けてくれるミラに優しさを感じた白夜ちゃんが、「また明日ですね。優しい悪の参謀さん」と微笑んで、また会うことを約束する。ここは大事に描こうと思いました。実はちょこちょこと描写を足していて、4コマの隙間を埋めるような感じで心情の補完をしています。ラストの「優しい悪の参謀さん」に繋がるように、アップリケをつけるシーンで一度「優しくない」とミラに言われてしまうくだりを入れました。ミラは照れ隠しなんですが、白夜ちゃんとしては否定されてしまったようでちょっとシュンとする。でも、「やっぱり優しいな」となる心情の流れを組み立てました。他には、ミラが「悪の参謀が浮かれちゃいけない」と1度コートをクローゼットにしまうシーンを入れたり。結局、また着てるのですが(笑)。