大貫妙子が語る坂本龍一や高橋幸宏との思い出、ライブに臨む心境の変化とフジロック
日本のシンガー・ソングライターの草分けで、近年は海外の音楽ファンからも高く評価されている大貫妙子。山下達郎が在籍した伝説的なバンド、シュガー・ベイブのメンバーとしてキャリアをスタートした大貫は、76年にソロ・デビューして以降、独自のソングライティングと美意識に磨きをかけてきた。新しい世代のリスナーからはシティ・ポップという側面に注目が集まっているが、大貫の歌の世界が様々な共演者の手を借りて美しく仕立てられたドレスだとしたら、シティ・ポップはえりの部分に過ぎない。その全体像を俯瞰するのにもってこいなのが新作『Taeko Onuki Concert 2023』だ。 【画像を見る】大貫妙子、近年のライブ写真 本作は2023年11月18日に東京・昭和女子大学人見記念講堂で開催されたコンサートを完全収録したもの。バンド・メンバーとして、小倉博和(Gt)、鈴木正人 (Ba)、沼澤尚(Dr)、林立夫(Dr)、フェビアン・レザ・パネ(P)、森俊之(Key)、網守将平(Key)という大貫が信頼する面々が参加。半世紀に渡るキャリアのなかから選りすぐりの名曲が披露されていて、洗練を極めた歌と演奏に身を委ねることができる。今年7月にはフジロックの初参加も控えているなか、いま彼女はどんな想いでライブに向かい合っているのか。新しい仲間との出会い。坂本龍一や高橋幸宏の思い出。これまで抱き続けたコンプレックスなど、彼女らしい率直さで語ってくれた。
網守将平、若き才能を抜擢した理由
ー『Taeko Onuki Concert 2023』は今の大貫さんのライブの魅力が詰まったアルバムです。大貫さんの歌声の魅力を引き立てるバンドの柔らかな音色も素晴らしい。キーボードが3人、ドラムが2人という豪華な編成ですが、そのおかげで大貫さんの半世紀近いキャリアから選ばれた曲が見事に再現されていますね。 大貫:ありがとうございます。ストリングスを入れないということであれば、これくらい音がないと地味になってしまう気がして。ドラムに関していえば、私はパーカッションがちょと、苦手なところがあるので。でもそうなると1人では手が足りなくなるから2人必要になってくる。 ーどうしてパーカッションが苦手なんですか? 大貫:自分の歌で横揺れするのがあまり好きじゃないもので。ラテン音楽とかは好きで聴いたりもしますが。この前、(村上)ポンタさんのトリビュート・ライブで「Mon doux Soleil」を歌ったんですけど、シェイカーを振っていた(斎藤)ノブさんに「均等に振って」って、こっそりお願いしたんです。ラテンっぽくなってしまわないようにと。ノブさんは、OK!!とわかってくださいました。 ーストイックなビートの方が歌いやすいんですね。 大貫:以前、ニューヨークで録音した時、バシリ・ジョンソンというパーカッショニストに参加してもらったんですけど、均一に淡々と、シェイカーを振って下さって。とても良かった。 ーキーボードは、グルーヴィーな曲は森さんがハモンドを、ボサノヴァやヨーロピアンな曲はパネさんがピアノを弾いて、網守さんはシンセが中心と役割分担されています。近年、大貫さんと一緒にやることが多くなった網守さんはバンドでは一番若手ですが、どういう経緯で出会われたのでしょうか。 大貫:「最近の若者はどんな音楽をやってるのかな?」と思ってパソコンを開いたら、突然、網守くんの「偶然の惑星」が流れたんです。それを聴いて「イイじゃん!」と思って、すぐにマネージャーに連絡したんです。「網守将平って誰?」って。 ーそれでマネージャーさんが探して? マネージャー:網守君とは、すでにとあるコンサートの現場で知り合っていました。その時彼からCDをもらって聴いていたんです。僕も「偶然の惑星」がお気に入りでした。それで彼に連絡して、直接会ってじっくり話をしてみたら、彼は大貫さんの音楽が大好きで全作品聴いてたんです。 ー偶然聴いた「偶然の惑星」が2人を結びつけた。 大貫:これだけ長く音楽を続けてくると、偶然なんてないってわかります。振り返ってみたら、全部、必然だったと思う出会いばかりです。 ー運命的な出会いだったんですね。大貫さんは「偶然の惑星」のどんなところに惹かれたのでしょうか。 大貫:私の曲って、メロディが飛ぶとか、変なところに転調するってよく言われるんです。それって計算ではなく、そこに行きたいという生理的な感覚なんですが。「偶然の惑星」にもそういうところがあって、聴いた瞬間に好きになりました」 ーそして、今回のライブ盤でも披露している「朝のパレット」のアレンジを網守さんに依頼された。大抜擢ですね。 大貫:私の曲が転調しすぎて戻れなくなった時に、よく坂本(龍一)さんに相談してたんです。なんとか戻りたいんだけどって。だから、私には音楽の知識がある人がパートナーに必要だと思っていて。網守君は坂本さんの藝大の後輩ですよね。だから、彼なら任せられると思ったんです。 ー昨年、7インチのシングル盤でリリースされた「朝のパレット」は、大貫さんが手嶌葵さんに提供した(歌詞は手嶌葵が担当)「ちょっとしたもの」(2014年)に、大貫さんが新たに歌詞を書いた曲です。ライブでは2014年頃から披露されていましたが長らく音源化されませんでした。 大貫:ライブでやりながら、もう少し良くならないかなって思ってたんです。それで網守君にお願いしてみようと思って。 ー楽器の配置の仕方といい、1曲にストーリーを感じさせる見事なアレンジですね。80年代のヨーロッパ路線を思わせるような洗練された味わいがあって。 大貫:つたない言い方ですが、シャレている、っていう感覚を大切に思っているんですが、それって、あくまで感覚なので、説明できない。ので、そういう方を見つけるしかないんですね。すごく大事なんです。 ーわかります。大貫さんの歌には一貫した美意識がありますよね。「朝のパレット」の両A面曲「ふたりの星を探そう」も網守さんのアレンジですが、久しぶりのテクノなサウンドです。こういう可愛いらしさも大貫さんの歌の魅力ですね。 大貫:そういう、チャーミングな世界はやっていきたいと思っているんですけど、その場合、お願いできる相手は坂本さんしかいなかったんです。でも、坂本さんは体調を悪くしてらしたので。それで、思い当たったのが、網守君さんでした。