大貫妙子が語る坂本龍一や高橋幸宏との思い出、ライブに臨む心境の変化とフジロック
坂本龍一や高橋幸宏との思い出
ーその「ふたりの星を探そう」でドラムを叩いているのは高橋幸宏さん。幸宏さんにとって最後のレコーディングになりました。 大貫:カラフルな曲にしたかったので、ファッショナブルなセンスを持っている幸宏さんがぴったりだと思ったんです。でも、幸宏さんの具合が良くなかったので、大丈夫かな? と思いながらお願いしたんですけど、快く引き受けてくださって有り難かったです。レコーディングはすぐに終わったんですけど、幸宏さん、なかなか帰らなくて(笑)。奥さまから、何度も心配してメールがきていたのに、YMOの話とか、教授がどうだったとか、直近にいった海外旅行の写真なんかを出しながら延々と話していました。 ー久しぶりのレコーディングだし、大貫さんにも会えて楽しかったんでしょうね。 大貫:本当に楽しそうでした。そのあとお亡くなりになってしまいましたが。お願いできて本当によかったと思います。幸宏さんのドラムでなかったら、違う曲になっていたと思います。こういうドラムを叩けるのは、世界中探しても幸宏さん以外にいない、と私は思っています。 ー確かにそうですよね。幸宏さんのファンにとっても大切な曲になったと思います。もともとは96年に竹中直人さんに提供された曲でしたね。 大貫:「星が僕のオデコを照らす」という歌詞は竹中さんのことを意識して書きました(笑)。曲ができた時、いつか自分でも歌いたいと思ったんです。そして、自分で歌うならYMOみたいなサウンドにしたかったんですよね」 マネージャー:それを僕がこっそり網守君に伝えました(笑)。 ーさすがです(笑)。エレクトロニックなサウンドも網守さんの得意とするところですよね。この2曲を聴いて、網守さんは坂本さんの仕事を受け継いでいるようにも思えました。今後、網守さんは大貫さんを支える重要な存在になりそうですね。 大貫:この2曲のアレンジに関しては申し分のない仕上がりでした。これから彼にお願いすることは多くなると思いますね。まだ彼は、心を開いていない気がするけど(笑)。 ーそれは緊張しているからでしょう(笑)。ずっと聴いてきた憧れのミュージシャンと仕事をするわけですから。 大貫:いつも面倒臭そうな顔をしているけど(笑) 根はすごく真面目なナイスガイです。 マネージャー:網守君は藝大を目指す際に、藝大の先輩である教授の曲を聴き込んだそうです。その流れでに大貫さんの曲も全部聴いたと。大貫さんとの共同作業を始める際、「大貫さんの好きな曲を教えて」、と頼んだら、すごくたくさん曲名を書いてきました。「これ全部!?」って驚くくらい。 ー網守さんは坂本ワークスをしっかり学習しているんですね。ちなみに大貫さんは、坂本さんにどんな風にアレンジをお願いされていたのでしょうか。 大貫:坂本さんは作業をしている時に声をかけると嫌がるんです。でも、放っておくと怒り出す(笑)。なので、タイミングを見計らって、私が曲に抱いているイメージを伝えるんです。例えばフランスにドゥービルという海辺の街があるんですけど、その浜辺に朝靄がかかっていて向こうから馬が走ってくるような感じでどうかな、なんて言うと、「う~ん」とか言って聞いているのか聞いてないのかわからない感じなんですけど、それがひとつのきっかけになって何かを作り始めるんです。 ー大貫さんの曲も坂本さんの曲も映像的なので、どんな楽器を使うとか具体的な話をするより、映像的なイメージを伝える方がいいのかもしれませんね。 大貫:そうなんですよね。坂本さんも私も映画が好きなので、あの映画のあのシーンみたいな感じで、と伝えることもありました。あとは本とか写真とか。『LUCY』(97年)をニューヨークの彼の自宅で作っていた時、そこにナショナルグラフィックがあって、火山の表紙の一冊があったんです。それを坂本さんに見せて「こんな感じでお願いします」って言ったこともありました。 ー火山の写真ということは「Volcano」? 大貫:そうです。坂本さんは写真を見て「うん、わかった!」って喜んでました(笑)。 ーアート・リンゼイやヴィニシウス・カントゥアリアが参加した『LUCY』は、久しぶりに坂本さんをプロデューサーに招いて制作されたアルバムで、大貫さんの90年代を代表する名作ですね。 大貫:私も本当に良い作品だと思っています。やはり、坂本さんでなければ、作れない音があって、そのクオリティがとても高いんですよね。ご存知のとうり。彼は忙しい人ですから、なんとかスケジュールの隙間を見つけてお願いするんですが。断られたら諦めるしかないけれど、ハードルは高い方がいいです。彼の仕事を間近で見てきたので、それはわかるようになりました。『LUCY』の時はアートがうまくギター弾けなくて。ヴィニシウスもコードがわからないので、坂本さんがすごく怒っていたのを覚えてます。「コードも読めないのにギターをやってるのか!」って(笑)。 ーそれは大変(笑)。 大貫:男同士ですから対等に怒ると関係に亀裂が入ってしまいますよね。だから、昔のお父さんが子供を叱るような感じなんですよ。すごく愛情深く怒ってた(笑)。彼とのレコーディングでは、そういう風景をよく見ましたね。