大貫妙子が語る坂本龍一や高橋幸宏との思い出、ライブに臨む心境の変化とフジロック
ライブの歌声へのコンプレックス
ー今回のライブ盤では、その『LUCY』から4曲も選ばれていますね。なかでも、躍動感溢れる「Volcano」のあと、内省的な「新しいシャツ」が始まる流れが素晴らしかったです。ライブの選曲に関しては何か意識したことはあったのでしょうか」 大貫:選曲する時は、いつも歌いたい曲を1曲ずつ紙に書いて、それをマネージャーと並べながら順番を考えるんです。この曲はここに持ってこよう、とか話しながら。「新しいシャツ」や「横顔」は歌いすぎているので、もう歌わなくてもいいんじゃないの?って思うんですけど(笑)。 ーいやいや(笑)、聴いている方は全然飽きていませんから歌い続けてください。そういえば、「横顔」はコンサートのオープニングに選ばれることが多い曲ですね。 大貫:この曲はメロディがあまり飛ばないので歌いやすいんです。寝てても歌える(笑)。軽やかなポップスなので始まりの曲にはいいんじゃないかと思って。 マネージャー:今だったら「都会」でスタートするのもいいんじゃないですか? 大貫:1曲目にやるのはもったいない! いきなり難しい曲だと、ミュージシャンも緊張しているし。少し演奏して体が温まってからの方がいいんです、この曲は。 ー「都会」といえばシティ・ポップ人気曲。以前、取材でお話を伺った時は、演奏が前に出過ぎていて歌が弱いのがずっと気になっているとおっしゃっていました。 大貫:できれば歌い直したいです。ライブでは少しキーを下げて歌っていて、これくらいの感じがちょうどいいんですよ。 ー思えば、大貫さんは76年にソロ・デビューして、『LIVE ’93 Shooting Star in the Blue Sky』(96年)までライブ盤は一枚も出されていませんでしたが、2020年代に入ってからライブ盤は今作で3作目です。ライブに対する向き合い方が変わってきたのでしょうか? 大貫:ずっと自分の歌に対してコンプレックスを持っていたんです。下手だし、声量はないし。ちゃんと表現できていないと思っていて。デビューした頃、知り合いのミュージシャンから「ライブで声が出てない」と言われたりもしたんです。だから、ライブを録音した音源は全然聴けなかった。聴いてしまったら落ち込んでしまうので。歌うのをやめようと思ったこともあったんです。それが最近になって、ちょっとマシになってきたようです。ライブ盤の話が出る時に仕方なく聴いても、「あれ? 大丈夫かも」って思えるようになったんです」 ーそんなに長い間、ライブの歌声にコンプレックスを感じられていたとは。自己評価が厳しいんですね。 大貫:ライブが嫌なわけではないんですよ。ステージに上がったら全力でやっています。でも、それを後から聴くのがダメだったんです。 ー大貫さん独自の歌唱スタイルがあるじゃないですか。確かに声量はないかもしれませんが、繊細なニュアンスの付け方や凛とした優雅さ。一本の映画を見ているような語り口。そういった大貫さんの歌唱スタイルは、コンプレックスのなかから生み出されたものなんですね。 大貫:いろいろ挫折しながら、今の歌い方を見つけたんだと思います。昔と比べると少しはましになった気がするし。昔は緊張したままライブが終わるということもあったんですけど、最近は2曲くらいで自分を取り戻せるようになりました。 ーそんなに緊張するものなんですか。 大貫:これだけやってきてもすごく緊張します。だって、何百、何千という人が見ている前で歌うんですよ。普通はやらないことですからね。「もっと見て!」という人は別ですけど。 ーちなみに最初に人前で歌ったときのことって覚えています? 三輪車(シュガー・ベイブ以前に大貫が参加していたフォーク・グループ)の頃とか。 大貫:その頃は全然アガらなかったです。むしろ「もっと歌を聴いて!」っていう感じでした。 ー大貫さんにも「もっと見て!」な時期があったんですね。 大貫:もっと見て、とは思いませんでしたが。プロになっていく過程で、だんだん怖くなった。これで大丈夫なんだろうかって。 ーシュガー・ベイブの頃は? 大貫:あの頃は今より声が細くて、しかも、山下(達郎)君は、声量もありましたし。 山下君とは作る歌の世界も歌い方も全然違っていたし、その頃から歌にはコンプレックスがありました。まあ、歌うよりキーボードを弾いていることが多かったですけどね。シテージが狭いと、幕の内側に体半分隠れてましたから(笑)。 ーステージにメンバーが乗り切れなくて(笑)。 大貫:そういえば、山下君に「僕はジャンルを意識して曲を書くけど、ター坊は何もないところから曲を書くね」って言われたのを覚えてます。 ーそれから半世紀が経って、ようやくライブで歌っても「大丈夫かも」と思えるようになってきた。それは大きな変化ですね。 大貫:ほんとに。あとどれくらいできるかわかりませんけどね(笑)。 マネージャー:と言いながらも、実は近年ライブの本数はちょっとずつ増えています。今年も7月に「ピーターと仲間たち」があって、フジロックにも参加します。 大貫:この人がどんどん決めるんです。 マネージャー:僕はちゃんと大貫さんに確認してから決めてます(笑)。 ー「ピーターと仲間たち」は2023年にも開催されましたが、今回のライブ盤のバンドとは別編成で80年代の曲を中心にしたコンサートでしたね。 大貫:「ピーターラビットとわたし」とか打ち込みの曲をもっと聴きたいという人もいるので、そういうものを集めてやってみたんです。 マネージャー:実は1回だけの企画のつもりでスタートしました。公演後、大貫さんとの話の中で「楽しかったからまた是非やりたい」と申し出があったんです。 ーぜひ、シリーズ化して欲しいです。フジロックは初参加ですね。意気込みのほどは? 大貫:去年、軽井沢の野外フェス(「EPOCHS ~Music & Art Collective~」)に参加したんですけれど、お客さんが走って見にきてくれたりして嬉しかったんです。バンドメンバーとの関係も良くて。その経験があったので、フジロックのお話を頂いた時にやってみようと思ったんです。 ー野外のライブというのは、ホールとはまた違うものですか? 大貫:野外は気持ちがいいですね。見上げる先が、大空ですから!解放的なのでお客さんもリラックスして見てくれる。ホールだと、ずっと集中してこちらを見ているので視線が痛い!(笑) 昔は野外でもステージに上がるのが怖かったんですが、最近になってようやく怖くなってきました。それはそうですよね。もう70歳ですから(笑)。普段、年齢のことは、全く忘れていますけれど。 ーでも、そういうお話を伺うとライブがますます楽しみになります。 大貫:ライブは、やり続けないと歌が上達しないと、最近分かってきたので。家やスタジオで練習してもダメ。人前で良いプレッシャーを感じながら歌わないと。私には音楽しかないので、ライブで歌うことから逃げずにできる限り歌い続けたいと思ってます。 --- 大貫妙子 『Taeko Onuki Concert 2023』 CD/Blu-ray Disc:2024年5月22日(水)リリース LP:2024年7月24日(水)リリース 大貫妙子コンサート「ピーターと仲間たち 2024」 出演:大貫妙子、フェビアン・レザ・パネ、鈴木正人、坂田学、伏見蛍、網守将平、toshi808 2024年7月3日(水) 東京・恵比寿ガーデンホール 2024年7月6日(土) 大阪・Zepp Namba 2024年7月9日(火) 東京・EXシアター六本木 FUJI ROCK FESTIVAL’24 2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場 ※大貫妙子は7月26日(金)出演
Yasuo Murao