おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第39巻編】~シリーズを軌道に載せたあの悪魔超人。MVP級の活躍のワケ~
イチ作家として自戒をこめて叫びたいのは、昔と違って今は、ネットを使って専門的な情報をいくらでも検索することが可能です。しかし、それは逆にいえば、自分だけしか知らない情報を持つことが非常に困難であることを意味しています。ダルメシマンが見せた能力の数々は、まさしく"アイデア"とは何かという問いに対する、ゆでたまご先生の答えでした。 さて、試合に話を戻しましょう。両雄の闘いは序盤こそ互角。しかし、やがてダルメシマンがブラックホールのあらゆる特技を封じていく、まさに完璧超人らしいスキのなさで、徐々に優勢に転じていきます。 鋭い牙で全身をくいちぎられ、満身創痍のブラックホール。すでにステカセ、カーメンと連敗を喫している悪魔陣営、やはり悪い流れは断ち切れないのか...。 ですが、キン肉マンと二度対戦し、いずれも敗北寸前まで追い詰めたブラックホールは違いました。その大逆転劇の顛末はぜひ実際の漫画をご覧いただくとして...総じてこの闘い、ブラックホールという超人のミステリアス、ジェントル、タクティカルという魅力のすべてが詰め込まれた最高の一戦でした。 最後は、待望の新フィニッシュ技"フォーディメンションキル"で勝利を決め、悪魔超人軍に初勝利をもたらした彼の一世一代の大一番、アニメでもこの闘いは既に放送済みですが、彼の魅力にメロメロにされた人も多かったのではないでしょうか。 かくして悪魔超人の力が完璧超人に通用する事実を彼がしっかり見せつけ、この三つ巴戦の行方はますます見えなくなったところで世界同時進行の団体戦は次巻、後半戦へと続いていきます! ●こんな見どころにも注目! 本編でも触れた通り、試合序盤は強豪超人たちの強力無比な必殺技を繰り出し続け、大攻勢を仕掛けたステカセキング。しかし、それをあえてくらい続けたターボメンは、やがて静かに語りました。「必殺技は技を受ける側だけでなく、打つ側も相応のダメージを被る」。 実はこれ、他のバトル漫画では結構見落とされがちな真実で、ゆでたまご先生がそこをしっかり描かれたのはご自身の格闘技経験などもおありなのでしょう。個人的に非常に興味深い事案でした。異能バトル作品のようで『キン肉マン』はやはりリアルに根ざした格闘技漫画なんだなと思わずにはいられない、印象的な一言です。 ●おぎぬまX(OGINUMA X)1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中 漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社