コントレイル 令和のターフを華麗に舞った蒼き覇者は「コンちゃん」と呼ばれるほど愛され要素だらけだった 【もうひとつの最強馬伝説】
大谷翔平を彷彿とさせる「寝る子は育つ」
2019年の9月にデビューし、破竹の3連勝でホープフルSを勝利したコントレイル。 翌年にはぶっつけで皐月賞を快勝後、日本ダービーも制して二冠達成。秋には無敗のまま菊花賞も制し、シンボリルドルフ、ディープインパクトに次ぐ史上3頭目の無敗の三冠馬となった。 【予想配信】2歳中距離王者決定戦「ホープフルS」をガチ予想!キャプテン渡辺の自腹で目指せ100万円! そんなコントレイルは現役時代どのような馬だったのか。 同馬の育成に携わり、その素顔をよく知る大山ヒルズの齋藤慎さんに聞いたお話を、選りすぐりの名馬36頭の素顔と強さの根源に迫った『もうひとつの最強馬伝説~関係者だけが知る名馬の素顔』(マイクロマガジン社)から一部抜粋・編集してお届けする。 「寝る子は育つ」は競走馬にも当てはまるのかもしれない。 育成時代のコントレイルについて大山ヒルズディレクターの齋藤慎に話を聞くと「よく寝ていた」という答えが返ってきた。 「馬房に入るととにかくよく寝ていました。寝ているときはお腹を叩いても何をしても起きません。大胆に舌を出しながら寝息を立てて寝ちゃってました。大谷翔平も子供の頃はよく寝ていたって話を聞きますけど、この馬も同じかもしれません(笑)」 コントレイルが大山ヒルズにやってきたのは1歳の9月。これまで数々の名馬を見てきた齋藤だが、コントレイルの第一印象はこれといって記憶に残るものではなかったという。 「もちろん『ディープのいい仔がいる』という話は事前に聞いていました。確かに華奢で小さな馬体だったからディープの仔らしいなとは思いましたけど…キズナのときみたいな強烈なインパクトというのはありませんでした」 そんなコントレイルは調教を開始して3カ月後、球節炎に見舞われるというアクシデントが発生し、約半年間、騎乗調教を中断。 ウォーキングマシンでの別メニューを余儀なくされたが…調教を再開した直後、齋藤はコントレイルの走りに驚かされたという。 「他の馬たちと同じ調教メニューを課していましたが、この馬はまったく息が上がらなかったんです。他の馬と比べて半年ブランクがあるわけだから厳しいと思っていましたが、この馬は一切息が乱れません。生まれ持った心肺機能が優れているからこそでしょうが、この頃から『将来はすごい馬になるんじゃないか』って思いましたよ」 デビューを目前に控えた2歳の7月、コントレイルは早くも実力の片鱗を見せ始めた。中でも追われてからの反応の良さが齋藤の印象に強く残ったという。 「騎乗していて、拳をほんの少し動かしただけでもすぐにスイッチが入ります。こんなに反応のいい馬はなかなかいませんよ。反応がいいから動きたいときには一瞬で抜け出せますから、レースでも不利を受けることがほとんどありませんし、走り方がキレイでミスステップがまったくありません。どのスタッフが乗ってもキレイに走るので、スタッフが『自分は巧いかも』って思い込んでしまうんです(笑)」 人が馬房に入っても一切嫌がることはない素直な性格に、調教が終わればすぐに眠るというギャップ。 そして調教ではキレイなフォームで走る―― 愛される要素だらけだったコントレイルは、たちまちスタッフたちからも親しまれ、いつしか「コンちゃん」という愛称で呼ばれるようになっていった。 コントレイルは2歳9月のデビュー戦を快勝し、続く東京スポーツ杯2歳Sで重賞初制覇。 年末のホープフルSも勝利してGⅠホースの仲間入り。翌年のクラシック制覇を目指し、英気を養うために大山ヒルズに戻ってきた。 「競走馬になっても相変わらず、馬房ではよくイビキをかいて寝ていました。ただ、この馬の面白いところはカイ食い。普通の馬はレース前によく食べて、レース後はカイ食いが落ちるものなんですが、この馬はレースから1週間後くらいの間はすごく食べるんです。栗東でもそうだったみたいですが、ウチに戻ってきても同じでした。ただ、賢い馬だからレースが近づいてくると身体を作ろうとして食べなくなるんです。こんな馬、なかなかいません」