<高校野球>コロナで休業の高校野球居酒屋オーナー 中止のセンバツ球児へのメッセージ支えに
新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店が苦境に立たされている。4月から臨時休業するJR神田駅近くの居酒屋「球児園」(東京都千代田区)もその一つだが、経営者の山川健児さん(44)には店を守る理由がある。中止となった今春の選抜高校野球大会の球児への320通を超える励ましのメッセージを全国のファンから託されているからだ。【藤井朋子】 【図解でわかる 感染した?と思ったら】 PL学園(大阪)、横浜(神奈川)、池田(徳島)……。店内の壁などには懐かしい古豪から誰もが知る強豪まで甲子園出場校のユニホームがずらりと並ぶ。各校のOBらから譲り受けたもので、約150着を保管。全部は飾りきれず定期的に入れ替えて展示しているが、今は静かに再開の時を待つ。 東京都出身の山川さんは、大の高校野球好き。地方大会には1回戦から連日のように駆け付け、春と夏は欠かさず甲子園で観戦する。高校野球の魅力を「青春をささげ、全力でプレーする懸命な姿」と話す。パソコンなど機器販売の会社で働いてきたが、2019年3月、長年の夢だった高校野球ファンが集まれる店を開いた。客足は少しずつ伸び、初対面でも客同士が往年の名場面を思い返して盛り上がる姿に何よりもやりがいを感じた。 しかし、今春は違う。3月にセンバツの中止が決定。客の中には、今回の出場校の部員の父親もいた。部員やその家族の気持ちを思うと、心が沈んだ。「何か球児のためにできないか」。出場校への応援メッセージを届けることに決めた。名刺大の紙を用意し、客に協力を求めた。「夏に皆さんの雄姿を見られると信じています」「チームワークの良さで乗り切りましょう」。温かい励ましの言葉が続々とつづられた。 ただし、店は厳しい状態が続く。3月は予約のキャンセルが相次ぎ、売り上げは平常時から6割近くも落ち込んだ。店と事務所の家賃や人件費、発注した食材費などの支払いが重くのしかかる。「店が潰れるかも」との不安から営業を続けようとも考えたが、「少しでも夏の大会開催の可能性を高めたい」との思いが勝った。4月2日から休業し、現在は政府の緊急事態宣言に合わせて5月14日までの延長を決めた。 山川さんは「一生懸命努力することが、これからの人生で必ず生きる。気持ちを切らさず頑張ってほしい」と球児にエールを送る。その姿は自らに言い聞かせているようにも映る。応援メッセージは今も、投稿サイトのツイッター(@kyujientokyo)のダイレクトメッセージなどで受け付けている。メッセージは店の再開後、各学校に届ける予定だ。