「桶川ストーカー殺人事件」「栃木リンチ殺人事件」…警察の失態と怠慢による「初動ミス」が招いた悲劇
「何か事件が起こる前に警察が予防してほしい」
警察庁で刑事局担当の官房審議官などを歴任した小野正博は「桶川のストーカー事件も、刑事訴訟法的には『殺人事件』として立件したが、『なぜ相談に来た被害者の安全を確保できなかったのか』という批判が根強く残った」と警察側の対応の不備を認め、「事案が起きれば複眼的な捜査が必要になる。事件化して公判で立証するだけではなく、被害者の救出や犯罪の抑止、被害の拡大防止も求められる。警察法がそれらを含めて警察捜査だと規定しているからだ。警察官は単なる公務員ではない。現場で一人ひとりが自分で判断しないといけない」としてより被害者サイドに立った捜査を求める。 警察庁長官の露木は背景について「事件捜査は本来、人を処罰するための手続きであり、それによって被害に遭いそうな人の人身被害を防止するという発想がそもそもなかった。桶川事件も名誉毀損が立件に値するかどうかという感覚だったと思う。そうであれば、署で他に傷害事件が発生していれば、当然、事件としてはそっちが重いのでそれを優先してしまう」と説明する。 一方で「捜査することによって対象となっている事件そのものではなく、その先にもしかしたら起きるかもしれない凶悪事件の発生を防止することが求められていると気付かされた。何か事件が起こる前に警察がそれを予防するためにもっと積極的に動いてほしいというのが国民の期待になってきていると思う」とみている。 1995年に大阪で起きたオウム真理教信者による大学生拉致事件。宗教団体への強制捜査を巡っては、信仰や親子問題を理由に「警察の勇み足」「もっと慎重に対処すべきだった」「オウム側に『宗教弾圧だ』との口実を与えた」などと非難も出た。それでも捜索を指揮した川本は言う。「違法と批判されても、俺はやかましいと言えた。被害者の生命というのは第一や。批判を恐れて法的な判断を重視し、二の足を踏む指揮官がいるが、被害者の救出こそが最優先。これは絶対に間違いない」 大学生は救出されなければ翌3月20日、教団拠点の山梨県上九一色村(当時)に連れて行かれることになっていた。その日、東京では中央省庁が集まる営団地下鉄(現・東京メトロ)霞ケ関駅を通る3路線5車両に猛毒のサリンがまかれ、2020年に闘病の末亡くなった女性を含め14人が死亡、6000人以上が重軽傷を負う地下鉄サリン事件が発生した。
甲斐 竜一朗(共同通信編集委員)