「桶川ストーカー殺人事件」「栃木リンチ殺人事件」…警察の失態と怠慢による「初動ミス」が招いた悲劇
「事件性の見逃し」など初動のミスで失われた命
警察の捜査が問題になるのは、多くが初動の対応ミスだ。「事件性の見逃し」と、ストーカーなど「人身安全関連事案の不手際」に大別される。 事件性の見逃しで最も非難されるのが殺人事件。犯罪死を検視や捜査のミスで病死や事故死として処理してしまい、犯罪の発生が認知できない場合、第2、第3の殺人事件が起きることがある。 犯罪死の見逃しは1998年以降、全国で56件発覚している。死因究明制度の改善に取り組んだ元警察庁長官の金高(“高”ははしご高)は「殺人の見逃しは警察の恥というよりは罪。殺人事件を認知できなければ、殺人犯を市民の中に放置することになり、往々にして次の殺人が起きる」と話す。 金高は2009年からの刑事局長時代、事件性の有無を判断する検視官の臨場率や遺体の解剖率を向上させるための施策を推進した。その結果、法医解剖は従来、裁判所の令状に基づく司法解剖、遺族の承諾による承諾解剖、監察医による行政解剖の3種類しかなかったが、2012年6月に死因・身元調査法が成立し、警察署長の判断で実施できる調査法解剖が新たに加わり、解剖率の向上につながっている。 人身安全関連事案の不手際では、被害者からの再三の相談への対応が鈍かったり、事案を軽視したりする「怠慢」「失態」が原因とされる。桶川ストーカー殺人事件の後も、警察に被害相談していた女性や家族が殺害される悲劇が起きている。 長崎県西海市で2011年12月、ストーカー被害を訴えていた女性の母と祖母が自宅で男に刺殺された。ストーカー行為の相談を受けていた千葉、三重、長崎の3県警は「危機意識が不足していた」との検証結果をまとめた。千葉県警習志野署員が被害届の受理を先送りして慰安旅行をしていたことも表面化し、県警本部長らが処分された。 2012年11月には神奈川県逗子市の女性(33)が自宅で元交際相手の男に刺殺され、男は自殺した。県警が11年に女性への脅迫容疑で男を逮捕した際、逮捕状に記載された女性の結婚後の姓や住所の一部を男に読み上げていたことが発覚。女性は12年3~4月、男が大量のメールを送ってくると県警に相談していたが、当時のストーカー規制法で連続した電子メールの送信は適用対象外だったため摘発されなかった。事件を機に法の不備が指摘され、初の改正につながった。 2013年10月には東京都三鷹市で、高校3年生の女子生徒が刺殺され、元交際相手の男が殺人未遂容疑で逮捕された(のちに殺人などの容疑に切り替え)。女子生徒は事件当日の午前中に両親と三鷹署を訪れ、男によるストーカー被害を相談していたことから警視庁の対応が問題視され、警察庁は同年12月、全国の警察にストーカー対策を強化するよう指示した。