もう無理!運動の限界を決める「脳のメカニズム」 パフォーマンスを最大化する「覚醒ゾーン」に入るには?
つまり運動をあきらめるほどの「苦しい、つらい」という感情の発生に遅れが生じているのでしょう。 ――扁桃体の動きを抑えて、苦しい感情をできるだけ感じないようにして運動パフォーマンスを上げることはできるのでしょうか。 扁桃体はいわばリミッター(制御装置)です。筋肉に過剰な負荷をかけて体を痛めることがないように、そして命に危険が及ぶような生理的限界を超えないようにするためのもの。つまり、なくてはならない存在です。
ただトップアスリートなどは競技中のミスで動揺(情動が変化)して、運動パフォーマンスが落ちることがないよう、失敗しても対戦相手にリードされても、平静を保つ、あるいは「とにかく勝つぞ」と闘争心を維持することができるように、メンタルトレーニングを積んでいるということはあります。 最大の運動パフォーマンスを発揮するには、リミッターをはずすことではなく交感神経と副交感神経のバランスが大事だと考えます。副交感神経が活性化しすぎて落ち着きすぎると、やる気や集中力が落ちてしまいます。
一方、交感神経が活性化しすぎた状態では、緊張や力みでいつもの動きができなくなってしまいます。このメカニズムはよくわかっていませんが、交感神経は筋肉内にあるセンサで、筋の緊張状態を調節している筋紡錘も支配していることが報告されています。 交感神経と副交感神経のどちらも適度に働いた「覚醒ゾーン」があり、最もいいパフォーマンスを発揮するならこの覚醒ゾーンを目指すといいでしょう。 ■軽い運動が仕事のやる気アップにもつながる
――競技によって「交感神経がどれくらい働くのがベストか」という程度は異なるのでしょうか。 競技種目によっては適正な水準はあると思います。例えば陸上競技ですが、個人差があるものの、スタートラインに立った時の心拍を測ると、短距離では速く、距離が長くなるにつれて、遅くなるという報告があります。 これはそれぞれの競技中に必要な交感神経の活動水準を反映していると考えられます。こうしたなかでも個人差がありますので、自分がよい成績を出したときの「覚醒ゾーン」を覚えておくといいと思います。