白井元調教師と学ぶ血統学【162】連載もクライマックス!凱旋門賞&ブリーダーズカップで見えた日本馬の〝課題〟
【白井元調教師と学ぶ血統学「温故知新」】 元JRA調教師の白井寿昭氏に指南役をお願いし、様々な角度から血統を考える連載の第162回。今週からの数回で長きにわたった〝温故知新〟の連載を総括していく。血統とは何か? どうして血統が必要なのか? この難しいテーマを楽しく学んでいく方法は? 連載当初から支えてくれている〝白井信者〟の方のみならず、最近に競馬を覚えたライトファン、これから深く競馬に関わりたいと考えている人にまで伝えたい競馬の魅力──。しっかりと胸に刻んでいただきたい。 東スポ競馬・関西地区本紙担当であり、白井氏との親交も深い松浪大樹記者のナビゲートを楽しめるのも残り数回。連載の最終局面をご堪能ください。
シンエンペラー参戦の凱旋門賞を改めて回顧
松浪大樹(東京スポーツ記者=以下、松浪)連載のまとめをする前に今年の凱旋門賞、ブリーダーズカップについての振り返りをしましょう。もっとも、レースそのものに言及するのではなく、もっとアバウトな感じになりますが。 白井寿昭氏(元JRA調教師=以下、白井)なかなか勝つことができんからな、凱旋門賞。BCクラシックについても同様で、日本馬にとっての高い壁になりそう。こんな感じの話かな。 松浪 そういうことです。まずはブルーストッキングが勝った凱旋門賞からいきましょう。いつも言われることではありますけど、今年も馬場が悪かった。 白井 ホンマになあ。毎年のように馬場の話をしとる気がするけど、その影響が大きいんやから。仕方がないな。 松浪 良馬場であれば結果は違った…も毎年のように言われるフレーズです。でも、レースは重馬場で行われたわけですし、そうなる確率も今後も高いわけですし。 白井 フランスのあの時期はね…。雨が多い。 松浪 だから、そういう馬場に合うタイプを連れて行く。簡単な表現ですけど、その馬場をこなすという部分が未知数過ぎませんか? 今年のシンエンペラー(12着)は道悪歓迎くらいのイメージでしたし。 白井 ひと口に馬場といっても、日本の重馬場とはまるで違うねん。松浪君はゴルフをするんだったよな? 松浪 しますよ。パチンコ引退気味の最近では唯一の趣味です(笑い)。 白井 あのダフッてしまう芝があるやろ? 北海道のゴルフ場なんかに多い。 松浪 はいはい、なんとなくイメージができました。スッと滑らず、クラブがガツンと入ってしまう。あれですね? 白井 それ。クラブに絡みつく感じで。欧州の芝はあんな感じやねん。長さは似たようなもんでも、ねちっこさが違うというか…。 松浪 それでいて路盤もボコボコ。そこに雨が降ったら…。 白井 どんな走りをするかなんて、そんなもんの予測はできんわ。やってみんことには。 松浪 エルコンドルパサー(1999年=凱旋門賞2着)のように、ずっと欧州に滞在させるべき。こんな意見は根強いですが、先生のご意見は? 白井 馬にもよると思うけど、現地に長くいて、環境や馬場に慣れさせる。これは悪いことではないやろうし、ダンスパートナーも長いこといたけど、滞在後半のほうが馬は良くなってたよ。ノネット賞(2着)よりもヴェルメイユ賞(6着)のときのほうが環境にも慣れてた。 松浪 でも、馬には本質的な適性というものがあるじゃないですか。そこは変わらないような気がするのですけど。 白井 確かに素養は必要と思う。エルコンドルパサーはキングマンボにサドラーズウェルズ。欧州に適応しそうな背景が血統面にあったしな。 松浪 仮にスペシャルウィークみたいなスラッとした馬でも、欧州で調教をすれば、形が変わってきますかね? 白井 ガラッと変わることはないかもしれんけど、体つきはそれなりに変わると思うよ。ディープの産駒とかも向こうで走っとるし。欧州には欧州のあれがあるからな。 松浪 凱旋門賞に関して言うのなら、僕は日本の酷暑。これを避けたほうがいいと思い出しています。凱旋門賞を狙おうと思ったら、8月にはトレセンに連れてこなきゃいけないし、それが負担になっているような気がして…。 白井 最近は北海道でも暑いしなあ。欧州も暑い時があるけど、日本とは比較にならんし、それを避ける。発想としては面白いな。 松浪 馬場に慣れさせるとか、そういう意味合いとは全く違う理由での長期滞在です。「避暑遠征」とでも表現しましょうか(笑い)。 白井 でも、一理ある考え方かもしれんよ。環境にも慣れるし。一石二鳥。 松浪 検疫の絡みとかもありますし、JCと有馬記念はあきらめになりますから、普通はしませんけどね。そこを勝てる馬なら、もったいない選択ですが、凱旋門賞を勝つためですから。 白井 夏負けした状態で調整して、それで輸送をして…。それよりはマシやし、やってもいい気はするな。