経営の判断ミスが現場のせいにされる根本理由 そのミスは本当にすべて現場に起因するのか
2015年に沈没し、乗員全員が命を落とした貨物船「エルファロ」の例を見よう(こちらの記事も参照)。 エルファロでの意思決定(青ワーク)を見ると、次のような判断があった。 1、そもそも嵐にさらされる直進ルートをとるかどうか 2、進路変更が可能なラムケイ地点で進路を変えるかどうか そして実行レベルの仕事(赤ワーク)には、ハリケーンのせいで荒れる海のなかで動力装置に潤滑油を送るシステムを操作する、積荷を守る、船体に生じた荒波の影響に対処する、といったことが含まれていた。
もちろん、船員たちが実行(赤ワーク)の部分でミスを犯した可能性はある。 とはいえ言ってしまえば、この貨物船の運命は、最初に下された決断によって定められたも同然だ。 彼らの結末は、「どれだけうまく航海できるか」ではなく、そもそも「直進ルートを進み続けるかどうか」にかかっていたのだから。 エルファロの船長は最初から嵐にさらされる直進ルートをとると宣言している。 これは言わば、OWSで一度だけブイを見て泳ぎ出し、その後二度とブイを見ないと言っているのと同じだ。
組織、それも発電所や病院、製造工場など、工程が非常に重視される組織では特に、赤ワークで起きるミスばかりが注目され、青ワークでのミスはあまり問題視されない傾向が見受けられる。 さらに深刻なことに、赤ワークと青ワークの構造的なバランスの悪さが気にもとめられていない。 なぜそうなるかというと、赤ワークの実作業上のミスはすぐに明らかになるからだ。 ●機長が自動操縦機器の操作を誤る ●患者に間違った薬が投与される
●発電所の操作員が切るべきブレーカーを間違う こういった事態が起きたときは、ミスが起きたとすぐわかる。 ■トラックが故障した。悪いのは運転手か? 一方、判断や意思決定における間違いは明らかになりづらく、評価するのも難しい。 エルファロの船員は、船が沈む間際になるまで、航海の初期に嵐にさらされる直進ルートをとったことが間違いだったという確信を持てなかった。 これはどんなビジネスでも同じだ。 例えばトラック運送会社では、管理職(青ワーカー)が積載量、時間、場所に関する決断を下す。