「自分だけの手柄にするな!」企業のアトツギ経営者に大切な「勘所」とは 実力だけではうまくいかない事業承継
同族企業で、「子どもの実力はまだまだ」と言って、代表から退くことを渋る経営者は多い。ただ、それは必ずしも社長側の問題ではなく、本当に後継者に課題がある場合もある。自身も父親の会社を継いだものの、2年半で社長を解任された苦い経験をもつ関根壮至氏は、自身の経験を生かし「アトツギ」のためのコンサルとして活躍する。関根氏に、事業承継をスムーズに行うため「次世代」が押さえるべきポイントを聞いた。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆経営の教科書には載っていない
――関根さんが経営しているランナーズ株式会社の業務内容を教えてください。 「アトツギ経営者」のための後継者育成コンサルティングを行っています。 同族企業では、創業者の子が先代から突然経営を託され、実力のないまま継いでしまうことが多くあります。 それで会社が混乱したり、経営が傾いたりしてしまうのです。 そこで将来、親の会社を継ぐことが期待されている企業経営者の子を中心に、企業経営を基礎から教えるとともに、跡継ぎならではの問題解決のサポートをしています。 ――関根さんも、父親の後継者として会社経営をしていましたが、なぜコンサルに転身したのでしょうか。 私自身が後継者として社長になってから、辛い失敗をしてしまったからです。 会社を継いで2年半ほどたった時、突然、社長を解任されてしまいました。 手痛い経験から、後継者は「経営の実力」だけでなく、家族との円滑なコミュニケーションなど「家」の問題が無視できないことを知りました。 そういうことは経営の教科書には載っていませんし、教える人もいません。 私と同じ轍を踏む人を一人でもなくすために、私が経験から学んだことをアトツギ経営者に伝えたいと思ったのです。
◆人間関係に立ち入って指導します
――失敗の経験から、何を伝えているのですか? 一言でいえば「自然体」の経営です。 後継者は経験や実績がないため、早く実績を作って先代に認めてもらいたいという気持ちが強いです。 そのため人に頼ることをせず、何でも自分でやろうとする傾向があります。 しかし、人にはできることと、できないことがあります。 できないことは素直にできないと認めて、人に任せましょう。自然体とは、そういうことです。 もうひとつは、家族や、会社で自分を支えてくれる人たちとの関係を良好に保つための、人間関係力が必要です。 経営とは関係ないように見えて、これがじつは重要なことです。 ――人間関係力を磨くのに、どのような指導を行うのでしょう? コンサル期間中、依頼主である後継者の、人とのやり取りは可能な限りチェックします。 そして、後継者としてふさわしくない対応があれば指摘して、変えてもらいます。 また、必要に応じて先代や部下などと面談します。 そこで後継者本人との人間関係がより円滑となるよう働きかけます。 慣れてくると後継者本人から「今、先代から〇〇について聞かれたのですが、どのように答えればいいですか」という相談が入ってくるようになり、それに対してリアルタイムで指導をします。 ――後継者の人間関係の中に立ち入っていかれるのですね。 おっしゃるとおりです。業績を伸ばす施策より、誰に何を伝えたかが重要な局面もあります。 そういう指導ができるのも、私が身をもって経験してきたからです。