「南海トラフ巨大地震」いつ起きる?どう備える? 大江麻理子キャスターが解説
テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第46回目は「南海トラフ巨大地震」について大江さんと一緒に深掘りします。 【フォトギャラリー】大江麻理子さんと考える社会問題「働く30代のニュースゼミナール」
今月のKeyword【南海トラフ巨大地震】
なんかいとらふきょだいじしん▶静岡県の駿河湾から宮崎県の日向灘沖にかけてのプレートが沈み込んでいる海底の溝状の場所を「南海トラフ」という。その周辺を震源域として、過去に100~150年間隔で繰り返し発生してきた大規模地震のこと。近い将来、発生する可能性が高いことから国や自治体が対策を進めている。 【関連ニュースTopic】 ・1944年12月 ■昭和東南海地震が発生。一度で終わらず、2年後に昭和南海地震が発生した マグニチュード7.9の昭和東南海地震が起こった2年後、震源域の西側でマグニチュード8.0の昭和南海地震が発生。過去の南海トラフ巨大地震のうち最も直近に起きた地震に ・2014年3月 ■政府の中央防災会議にて南海トラフ地震防災対策推進基本計画が策定された 政府は2012年に南海トラフ地震の被害想定を公表。’14年に想定死者数を10年間で8割減らす目標を掲げ「防災対策推進基本計画」を策定。10年たつ今年、計画を見直す予定に ・2019年5月 ■気象庁が、防災対応のため「南海トラフ地震臨時情報」の運用をスタート 南海トラフ周辺でマグニチュード6.8以上の地震が発生するなど異常が起き、その後巨大地震が発生する可能性が通常より高まった場合、気象庁が臨時情報を発表することに
■気象庁が発表する『臨時情報』。呼びかけの内容に応じた防災対応を 「『いつか来る』と言われ続けている南海トラフ巨大地震。アンケート結果からも皆さんの関心の高さが明らかになりました。ただ、実際に起きたときにどういう行動を取ればいいのか、国からどんな情報が発信されるのかなど、わからない部分がある方もいらっしゃると思います。事前に知っておくことで、もしものときに冷静に対処できるのではと思い、キーワードに選びました」と大江さん。南海トラフ巨大地震とは?どんなリスクが想定されていますか? 「南海トラフ巨大地震とは、静岡県から宮崎県にかけて大きな被害が想定されている地震です。歴史を振り返ると定期的に発生していて、マグニチュード8から9クラスの地震が今後30年以内に70~80%の確率で起きるだろうと言われています。発生した場合最大震度は7、津波は最大30メートルを超えると想定されていて、関東から四国・九州にかけて広範囲で著しい被害が生じるおそれがあります。政府の中央防災会議が2019年5月に公表した試算によると、最悪の場合の想定死者数は約23・1万人とされています。過去の事例から、大きな地震が広い領域で同時発生するケース、隣接する領域において時間差で発生するケースなど多様な想定が行われています」 気象庁は、南海トラフ地震発生の可能性が通常より高まった場合に「南海トラフ地震臨時情報」を発表することになっている。 「南海トラフの地域で、マグニチュード6.8以上の地震など異常現象が観測された場合に発表されるのがこの臨時情報です。情報には数種類あり、何が発表されるかが重要です。まず、観測された異常現象が南海トラフ巨大地震と関連するか調査を開始した場合に出されるのが、『南海トラフ地震臨時情報(調査中)』です。そこから最短2時間程度で、調査結果が示されます。巨大地震が来るかもしれないと評価した際には『巨大地震警戒』が発表されます。その場合、一週間程度の警戒が必要で、津波からの避難が間に合わない沿岸部の方々には事前に避難をしましょうと呼びかけます。調査の評価により『巨大地震注意』という発表もあります。これは、いつ大きい地震が起きるかわからないから備えを再確認し、必要に応じて自主避難も考えましょうと呼びかけるもの。『調査終了』が発表された場合は、引き続き地震の発生に注意しながら通常の生活を送ってくださいという内容になっています」 2019年運用開始以降、「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたことはまだない。 「今年4月、南海トラフ地震の想定震源域内の豊後水道を震源とするマグニチュード6.6の地震が発生しました。今回は基準未満でしたが、6.8以上になっていたら初めての臨時情報が発表されるところでした。もしも発表された場合、地域によっては移動を必要とする人が出てくる可能性があります。専門家の中には、臨時情報は社会的なパニックを引き起こすのではないかとデメリットを懸念する声も少なくありません。いざ発表されたときに混乱しないよう、事前に理解し、取るべき行動を想定しておくことが大切です」 ■南海トラフ巨大地震が起これば、誰もが影響を受ける。日頃からの意識が重要 BAILA読者へのアンケートでは、南海トラフ巨大地震の被害が想定される地域に住む人とそうでない人の両方から、必要な対策を知りたいとの声が。 「まず、広範囲で大きくプレートがずれた場合、ほぼ日本全体に被害が及ぶと思っておいたほうがよいでしょう。全国的に大きな揺れや津波に備えることが対策として挙げられます。また、甚大な被害が想定されるのは経済的に重要な地域でもあり、様々なビジネスのサプライチェーンの中に組み込まれています。そこが地震の被害を受けてしまうと、どこに住んでいても自分の仕事や生活に影響が出てくると思います。ですので緊急事態の際に損害を最小限に抑え、仕事や生活を継続させていくためのBCP(事業継続計画)の南海トラフ巨大地震バージョンをあらかじめ策定しておく必要があります」 南海トラフに限らず首都直下地震や豪雨など、日本は自然災害と隣り合わせであると認識して備えをしてほしいと大江さん。 「備蓄をはじめ家具の配置などを考慮し、安全な職場や住まいにしておくこと、居住地域や行動範囲のリスクを把握することなどが大切です。私はいつも、近所を散歩しながら地域の地形や情報を頭に入れています。実際に歩いてみると、電柱などに海抜表示を見つけて『意外と低いな』と気づいたりも。『水はこちらに流れそうだから、逃げるときはあちらへ』といったことを想定しながら歩くようにしています。日頃から自分の行動範囲について情報を得ておくと、何か起こったときに役立つのではと思います」 大江麻理子 おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。 撮影/花村克彦〈Ajoite〉 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2024年8・9月合併号掲載