増える中国移民を結びつける“バーチャル・チャイナ”とは…愛国心が強いはずの中国人が祖国を捨てる「不穏な理由」
中華街から「バーチャル・チャイナ」へ
最も注目すべきは、中国の富裕層とエリート層が国外へと脱出した結果、今までになかった“ある集団”が形成され始めていることだ。 かつての中国移民は、それぞれの国にある中華街に入り込み、外部とコミュニケーションをとることはほとんどなかった。ところが現在の中国移民は、それぞれの国のメインストリームの社交界まで入り込む。それだけではなく、インターネットのネットワークによって世界中にちらばる仲間と結ばれ、「バーチャル・チャイナ」とも言うべき新たな社会を構築している。 このバーチャル・チャイナのパワーを決して過小評価してはいけない。今後、中国本土の景気がさらに落ち込めば、バーチャル・チャイナの存在感が相対的に強まる可能性が高いからだ。 海外移住する中国人のなかには、日本に来る者も一定数いるが、彼らによって新しいスタイルの中国語書店が開業されているのを目にする。中国国内で発禁処分になった本が手に入るだけでなく、定期的にサイン会やセミナーなどが開かれている。こうした知識と情報がネットワークを通じてさらに広がっていく。 独裁政治にめげない中国人のレジリエンス(強靱性)は「新たな中国」を創り出そうとしている。日本にとって、その新しい中国との接点がすでにできているのは、何よりのことである。 ◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。
柯 隆/ノンフィクション出版