【相撲編集部が選ぶ九州場所9日目の一番】隆の勝が1敗守って勝ち越し第1号に。2大関とトップ並走
壁を破る条件は、さまざまに整っていると言っていい
隆の勝(突き落とし)狼雅 先々場所の準優勝者が、その時を上回る勢いだ。 隆の勝が警戒していた左の廻しをいったんはつかまれながらも、落ち着いて狼雅を突き落として1敗を守り、幕内の勝ち越し第1号となった。 9日目での勝ち越しは、初めて敢闘賞を受賞した令和2年3月場所以来。これには、「自己最速かと思っていました。(前に)したことを忘れていました」と笑った。ちなみに先々場所は4勝3敗から残り全勝と追い込み型だったので、星勘定ではそれ以上の快進撃だ。 この日は、今場所序盤に猛威を振るった右からの突きの腕が伸ばせず、やや不発。狼雅に左手を伸ばされ、相手得意の廻しを許した。だがそれでも隆の勝は落ち着いていた。右差し、左のおっつけで圧力を掛けると、最後は左からの突き落としで狼雅を土俵に這わせた。 【相撲編集部が選ぶ九州場所9日目の一番】琴櫻襲名の日も遠くない? 琴ノ若、初Vへの夢膨らむ2敗対決での圧勝 「ちょっと捕まったけど、たまたま食ってくれたんでよかった。体が動いている」と隆の勝。またテレビのインタビューでは「落ち着いて相撲が取れている。おっつけもずっと練習してきたので。やっと使えるようになってきた」とも。“おにぎり君”とファンに愛される笑顔が全開だ。 今場所の前半の隆の勝は、とにかく右からの突きとノド輪の威力が抜群だった。初日から琴勝峰、遠藤、翔猿と、柔らかくて押しづらそうな相手を右ノド輪でなぎ倒してきた。その威力には7月場所を上回るものを感じさせる。序盤戦に比べると、中盤はやや慎重な取り口になってきた感もあるが、1敗をキープし、琴櫻、豊昇龍の大関2人と優勝争いの先頭を併走している。 今場所の地位はくしくも7月場所と同じ東前頭6枚目。まだ三役とは対戦しておらず、かつ、平幕の2敗勢とも未対戦(あす10日目は阿武剋との対戦が組まれたが)ということから、後半の対戦相手は結構厳しいことになる可能性はあるが、一時は大関候補と言われた実力者。7月場所の優勝決定戦進出の例を持ち出すまでもなく、そこを勝ち抜いていく可能性は十分持っている。 7月場所の優勝決定戦進出を含め、過去に優勝同点と次点は計3回あり、優勝争いの経験も十分。平幕力士は、優勝争いに加わっても、本心を隠して「俺なんて……」と“カオじゃないコメント”を出すケースが少なくないが、「(優勝に近づいている実感は)ないです。上位に誰がいると思っているんですか」と言いながらも、「もちろん優勝したいし、幕内優勝できるなら、そんなすごいことはない」と、優勝争いコメントも堂々と受けて立つ。「意識しすぎるとダメになっちゃうので、今までどおり。名古屋でいい経験ができたので、生かせているかなと思います」とも語っているところが頼もしい。 大関貴景勝(現湊川親方)が引退し、今場所から常盤山部屋の部屋頭。その自覚とともに、優勝経験豊富で、相撲の技術の研究にも定評のある湊川親方にもアドバイスをもらいやすい状況になっているはず。今場所5日目の14日に30歳となったが、ということは大関も全員年下。大関との優勝争いになろうが、直接対決になろうが、気後れはないだろう。壁を破る条件は、さまざまに整っていると言っていい。「名古屋場所と似たような感覚はある。名古屋場所より集中しているかなと思う。落ち着いているし、相手の動きが見えている。やっぱり勝っているからかな」という言葉に、期待は膨らむ。 この日は3大関がいずれも強い相撲で白星。阿武剋は宝富士に叩き込まれて2敗に後退し、1敗に琴櫻、豊昇龍、隆の勝、2敗で大の里、阿炎、宝富士、阿武剋、尊富士が追う形となった。3大関が争いの中心にいるのに加え、2敗に阿炎、尊富士と優勝経験者が2人いるのも不気味。優勝決定戦経験者の隆の勝も加え、役者は揃っている。豪華キャストで迎える、優勝争いの後半戦のドラマが楽しみだ。 文=藤本泰祐
相撲編集部