「オリックスのスカウトがものすごい熱量でした」“193cmの無名ピッチャー”、オリックス3位指名で泣いた…プロ野球9球団から調査書、監督は「3位で悔しいと思って」
「ネクタイもスーツもワイシャツも…」すべて紺色だった
前日、須江にどこの球団がもっとも指名の可能性が高そうなのかを尋ねると、パ・リーグの球団であることは示唆してくれたものの、それ以上は教えてくれなかった。 だが、翌日、須江はその答えを全身にまとっていた。 ドラフト当日、須江は光沢の入った黒に近い紺色のネクタイを締めていた。須江にそのネクタイの色は何か意味があるのかと尋ねると「関係ありますよ」と即答した。 「ネクタイだけじゃないですよ。スーツも、ワイシャツも、靴下も、時計も。パンツもです。見せられないですけど」 ワイシャツは黒に見えたが紺色だったようだ。3ピース仕立てのスーツは濃紺、時計の樹脂製バンドは明るい紺色。まさに全身、紺尽くめだった。 パ・リーグで濃紺を基調とするカラーの球団といえば1つしかない。西武もユニフォームこそ紺色だが球団カラーと言えばスカイブルーのイメージがある。 事前に須江からそんな話を聞いていたため、われわれ報道陣はオリックスの順番になるといやが上にも緊張感が高まった。
「オリックスのスカウトがものすごい熱量だった」
3巡目でオリックスからの指名を受けた瞬間、オーバーアクションを繰り返した山口とは対照的に、須江は終始、冷静だった。その直前、須江は目を閉じたときに、じつは予感があったのだという。 「オリックスのスカウトの方からは、ものすごい熱量を感じていたんです。山口を育ててみたい、という。だから、この流れなら3位で指名もあるかなと。ダメでも4位ぐらいだと思っていたんです。ただ、そんなことは山口に言ってないですよ。がっかりさせてもかわいそうなので。ドラフトに絶対はないですから」 指名直後、須江はカバンから用意していたオリックスのキャップを取り出し、山口に被らせた。まさに相思相愛だったわけだ。
「3位で悔しいと思って欲しい」
山口の指名が確定すると、すぐに記者会見の準備に移った。須江は終始、冷静を装っていたものの、こんな言葉から彼も上位指名に歓喜していることがうかがえた。 「司会は存在しません! 僕が司会をします。ははははは。ちょっとお待ちください」 そこから会見は実に40分近く続いた。異例の長さである。エンターテイナーでもある須江らしい対応だった。 その中では、あくなき向上心の持ち主である須江からこんな言葉もあった。 「(山口が)泣いてたんで、ちょっと言いづらくなっちゃったんですけど、今日は本当は最後に、悔しいと思って欲しいなという話をしたかったんですよ。春先は自分次第でもう1つ2つ上の(指名)順位になれるくらいの才能を発揮していたわけだから。3位で悔しいなと思っていて欲しいなと思っています」 山口は3人兄弟の長男で、中学2年生の弟と中学1年生の妹がいる。弟は身長175cmでがっしり体型、妹の身長も160cmとやはり大きい。この日の夜は、両親を含めて家族5人で回転寿司屋でお祝いをする予定だと話していた。 咄嗟にどれだけ食べる家族なのだろうと思ったところ、須江がすかさず山口に尋ねた。 「親目線になるけど、どれぐらい食べるの? 心配になっちゃって」 「40皿ぐらいですね」 机にうずたかく積まれた皿の塔がいくつも並んでいる光景が思い浮かんだ。それもまたロマン溢れる絵だった。 <前編、中編から続く>
(「野ボール横丁」中村計 = 文)
【関連記事】
- 【前回を読む】「ピッチャー歴たった1年、甲子園出場ゼロなのに…」オリックス3位指名のウラ側…193cm山口廉王(仙台育英高)とは何者か? 監督は「ドラ1候補でもおかしくなかった」
- 【初回を読む】「山口はもう1人いるから…」“193cmの無名ピッチャー”は指名の瞬間思わず「マジで?」…記者が完全密着「僕は指名されるかわからない選手」
- 【現場写真】「マジで?オレ?」山口廉王が指名され本人ビックリの瞬間&涙、涙の記者会見、ダイナミックすぎる193cmのピッチングまですべて見る
- 【話題】オリックス・中嶋聡監督「電撃辞任」“その後”…選手たちは衝撃をどう受け止めたのか?「僕が引っ張っていきます」口にした中堅選手の思い
- 【貴重写真】18歳大谷の上半身ガリガリだけど…衝撃の特大HR、ぷっくり捕手な村上17歳に山田哲人てへぺろ顔。超無名な頃の甲斐や山本由伸…名選手140人超の高校時代を見る