鳥居の奥はアーケード街 「昭和レトロ」魅せられ次々出店 活気再び
通りに面した鳥居の奥に、年月を感じさせる「土橋(どばし)市場」の赤い文字。夜になると、看板や点在する飲食店の明かりで、路地裏のようなアーケード街は昭和の雰囲気に包まれる。 市場は福岡県八女市の中心部・福島地区の土橋八幡宮の境内という、全国的にも珍しい立地だ。八女市史(1992年発行)によると、第二次世界大戦が終わった翌年の46年5月、大陸からの引き揚げ者が開いた露店のヤミ市が起源。バラックが並び、食料や衣類など生活物資を扱う店が多い時で70軒を超えた。 昭和40~50年代は駄菓子屋やおもちゃ屋から居酒屋、スナックまであり「肩が触れ合うほど」の人通りがあった。だが、その後は店をたたむ人が相次いだ。 「このまま廃れさせてはもったいない」。2010年代、かつてのにぎわいを知る30~40代の地元飲食店主たちが空き店舗を借りて商売などで活用し始め、それが呼び水になり、衣類・古道具店、パン屋などしゃれた構えの店が次々できた。 この空間の「ノスタルジックな」魅力に引きつけられたのが福岡県みやま市出身の柿原治喜さん(46)。輸入業から転じて15年にバーをオープン。今や市場組合長として活気を支える存在になった。 19年から焼き鳥店を経営する永島(えいしま)裕司さん(39)は、このバーに通ううち、市場が一層好きになり出店を決意。他店で修業し、1年かけて「昭和を意識した」こだわりの店を構えた。 市場は入れ替わりを経て現在、たこ焼き屋、おでん屋、くん製料理の店など十数店が営業し、25年春はサンドイッチ店とタコスの店も開業予定。足しげく通う地元の自営業男性(47)は「20年前はさびれ、誰も寄りつかないような所だったが、様変わりして居心地がいい」と満足げだ。 新しい風が吹く市場で栄枯盛衰を見守り続ける人も。旧満州(現中国東北部)から引き揚げた母親の店を継ぎ、今もスナックを営む清田善子(よしこ)さん(79)は「昭和レトロ」の人気にはピンとこないものの「若い人が来てくれて(市場に)明かりがつくのはありがたいこと。元気である限り店を続けたい」と話す。【谷由美子】