【現役精神科医が語るいじめの真実】たった一枚の診断書が映し出す学校という組織の闇、「いじめ防止対策推進法」なければ、事実は隠蔽される
筆者は本連載「医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から」では、連続していじめ問題に言及している。まず、2023年2月に「1枚の診断書がいじめ自殺を防ぐ 医師だからできること」と題する小文を記し、ついで、24年4月に「【いじめ自殺を防ぐ1枚の診断書に全国から殺到】現役精神科医が語る「法と医者は使いよう」、学校の対応が遅いと言われるのはなぜ?」と題して書いている。 【写真】学校現場を変える一枚の診断書 反響は大きく、いじめ防止対策推進法(以下「同法」と略す)に言及した診断書を求めて、各地から筆者の外来が訪れる。筆者の非常勤先である東京都港区の診療所は交通の便もいいので新幹線で受診してくる人もいる。その日一日の初診患者の全員がいじめ被害者ということもあった。 もっとも、筆者は一介の医師であり、精神科医であるにすぎない。法律家ではない。精神科医として法に言及した診断書を発行するとしても、それは法律事務を取り扱っているわけではない。学校・学校設置者に対してこころの健康に関する注意喚起を行っているだけである。患者・家族のなかには、医師である筆者に強い法的アクションを求めてくる人もいるが、それは医師の管轄ではない。
いじめ防止対策推進法は精神科医の関与を求めている
筆者が同法に言及した付記を診断書に記す際、その法的根拠は以下の通りである。 同法は第8条において、「学校及び学校の教職員は、基本理念にのっとり、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民、児童相談所その他の関係者との連携を図りつつ、学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する」としている。筆者のような医師は、「その他の関係者」に該当する。 また、ほかならぬ精神科医として、この法に関わる理由は、この職業が心身の健全な成長と人格の形成に関わるからである。同法は、その第1条において「いじめが、(児童等の)心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与える」ことを指摘している。当該児童がいじめによって心身の健康を損ない、人格の形成に悪しき影響を蒙(こうむ)っていることを証言できるのは、精神科医である。同法は、明らかに精神科医の関与を求めている。