【現役精神科医が語るいじめの真実】たった一枚の診断書が映し出す学校という組織の闇、「いじめ防止対策推進法」なければ、事実は隠蔽される
担任教諭の丸抱え、校長による責任転嫁に対して
同法は、いじめに対する学校側の対応の不手際を予測している。担任教諭の抱え込み、校長の責任転嫁、加害者への介入の遅れ、被害生徒の孤立化、組織的隠ぺい、さらには、刑事事件化への抵抗などである。同法は、これらすべてに対して、法の条文をもって先手を打っている。 まず、担任教諭の丸抱えについては、第23条において、個々の教諭に対して学校への報告を課している。「学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする」との条文である。 ついで、校長による担任教諭への責任転嫁については、第23条の2において、「学校は、(中略)速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする」と記しており、校長に責任があることを明言している。 また、加害者に適切な指導を行い、直ちにいじめをやめさせることも、校長の責任である。この点は、第23条の3に記されている。「学校は、(中略)、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする」と述べている。この条文は、校長が被害者児童・生徒ならびにその保護者に対して、指導と助言を継続的に行わなければならないことの、法的根拠ともなりえる。
また、その児童等に対する教育支援には、通常の教室以外の場所の提供すら求めている。第23条4に以下のようにある。「学校は、(中略)いじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等(中略)必要な措置を講ずるものとする。」 また、学校は決して隠蔽してはならない。児童等とその保護者に対して、適切に情報を提供しなければならない。その法的根拠は、第23条5の「学校は、(中略)いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとする」との文言にある。 最後に、学校は、必要があれば、刑事司法機関と連携することすら、躊躇すべきではない。同法第23条6は、以下の通り記している。「学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない」 同法が第23条から同条6にいたるまで、かなり個別の事情に踏み込んでいるのは、ひとえに担任教諭の丸抱え、校長による責任転嫁、説明責任の放棄等が学校において常態化していたからであろう。
診断書一枚が映し出す学校の闇
筆者が診断書を書けば、学校はすぐ動く。被害児童・保護者は、涙を流さんばかりの感謝ぶりである。しかし、紙切れ一枚で学校が動くという事実は、逆に言えば、学校は最初からいじめの事実を認知していて、かつ、それを積極的に隠蔽しにかかっていたということであろう。 お礼の言葉を述べる保護者の姿をぼんやりと見つめつつ、筆者は学校という組織の闇に慄然(りつぜん)とせざるを得ないのである。
井原 裕