湯川秀樹博士が愛した旧邸宅を次世代へ 改修設計担った安藤忠雄さんが示す「建築の真価」
建物全体に往時の空気をまとってよみがえった湯川邸だが、建物のかなりの部分はいったん解体、基礎部分は現代の技術が取り入れられた。「表」から見えない床下はコンクリートで補強され、細い柱には金属製の補強材が目立たぬように取りつけられている。安藤さんは施工を担った安井杢(やすいもく)工務店(京都府向日市)の仕事を高く評価している。
「海外ではできないきめ細かい丁寧な仕事。湯川先生の心の風景をあと100年残すためには、そうした空間を作るための技術者がいるうちに、やらねばならなかったように思う」
「下鴨休影荘」と命名された湯川邸は今後、京大を訪れた賓客や研究者らを迎える迎賓施設としての役割を持つ。居間から縁に出たとき見える庭は、日本の心と自然の大切さをゲストに示すためのものでもある。「そこに行った人たちの心の中に、どれだけ残るかが建築の真価」と語る安藤さんの思いが詰まった邸宅は、一般公開も予定されている。(正木利和)