「ジャングルジムから落ちた」6歳の少女の命を奪った兄はうそをついた ネグレクトされた異父兄妹の10日間【大津女児虐待死事件(上)】
救急隊は少女を手早く収容すると、少年にも同乗を促し、すぐさま救急車を出発させた。男性はサイレンの残響を聞きながら、万に一つの可能性を信じて少女の無事を祈った。 ▽約100カ所の皮下出血、傷害致死容疑で兄逮捕 その日の昼過ぎ、滋賀県警大津署は「傷病人の発見について」というタイトルで、この女児の事案を報道発表している。「公園内で倒れている少女を兄が発見、救急搬送先の病院で死亡が確認された」との内容で、亡くなった少女は小学1年の女児(6)、死因は捜査中とされていた。 事態が急展開したのはその3日後だ。大津署は女児の遺体を司法解剖した結果、死因は度重なる暴行に伴う外傷性ショックだったと断定し、傷害致死容疑で第1発見者の兄(当時17)を逮捕した。6歳の少女の体は肋骨が数本折れ、副腎が破裂、殴打の跡とみられる皮下出血が約100カ所あった。 兄は逮捕後の捜査に容疑を認め「妹の世話がつらかった」「暴行を隠すため、ジャングルジムから落ちたように装った」などと供述している。当時は未成年だったため、8月25日に大津地検から大津家庭裁判所に送致され、少年事件の審判を受けることになった。
年の離れたこの兄妹は一体どんな関係で、2人に何があったのか。県警の捜査や家庭裁判所の調査、関係者の証言をもとに、家庭環境や事件までの流れをたどってみる。 ▽複雑な家族関係、なし崩し的に始まった兄の同居 警察は報道発表していないが、亡くなった女児の氏名は清水実愛(しみず・みあい)ちゃんという。彼女の短い人生を記録するため、ここに名前を明記しておきたい。実愛ちゃんと加害者である兄は当時、実母(43)との3人暮らしだった。といっても、3人が一緒に暮らすようになったのは事件のわずか数カ月前。それ以前は、兄は京都府の里親家庭、妹は大阪市の児童養護施設にいた。 母親にとって兄は第1子の長男、実愛ちゃんは第3子の長女に当たる。母親には他に次男と三男がいるが、この2人は事件当時も今も別々の児童養護施設で暮らしている。長男(兄)と第2子の次男は同じ父親だが、実愛ちゃんと末子の三男はいずれも別の父親の子だ。